第240話 イタズラ心がくすぐられちゃう、ぽっちゃり
アリアちゃんがたこさんウインナーに対してとんでもない風評被害的なネーミングをしたので、それを全力で否定したわたし。
ここは異世界だから仕方ないのかもしれないけど、さすがに触手型ウインナーなんていう名称は不名誉すぎる。
ただ、ちゃんと説明したら分かってくれたから良かったよ。
ほっと胸を撫で下ろしていると、アリアちゃんの隣に座っていたイリアちゃんが不思議そうな顔で小首を傾げた。
その手にはスプーンが握られていて、銀色に光る湾曲した楕円の上には、ちょこんと赤いしわしわの実が一つ乗っかっていた。
その食材を眺めながら、イリアちゃんはぽつりと独りごちる。
「この赤い果実のようなものは何でしょう?」
「どうしたのイリア? あ、なにそれ。もしかして、チェリー?」
「うーん、チェリーに見えなくもないんだけど、こんなに表面ってしわしわだったっけ?」
「あー、たしかに言われてみればもう少しつるっとした表面だったような? あ、ていうかそれ私のお弁当にも入ってるや」
「匂いは……う~ん? あんまり嗅いだことがない匂いかも……ちょっと刺激臭というか」
恐る恐るスプーンを鼻に近づけてくんくんと匂いを嗅いでいるイリアちゃん。
さすがに梅干しの匂いは知らないのか、よく分からない食材に対して困惑している。
そんなイリアちゃんの様子を見て、わたしの中でイタズラ心がふつふつと沸き上がってきた。
「ふっふっふ、イリアちゃん。『それ』を見たことがないのかな?」
「は、はい。これって何なんでしょうか?」
「それはね、梅干しっていう名前のおかずだよ」
「梅干し?」
「うん。それを頬張りながらご飯を食べると美味しいんだよ」
「そ、そうなんですか。じゃあ、ちょっと試してみます」
イリアちゃんはまじまじとスプーンの上に乗る梅干しを見つめた後、ひと思いにパクッと頬張った。
その瞬間、イリアちゃんの目が見開かれる。
「~~~~~~~!!! な、なんですかぁこれ!? すっぱあ!!?」
ガタガタッ! と体を震わせながら、イリアちゃんが絶叫する。
そんな彼女の姿を見て、わたしの隣にいたメンバーが遠い目をしながら呟いた。
「ああ、梅干しの犠牲者がまた一人出ちゃったんだね……」
「あれはとんでもない食材やからなぁ」
「ま、まあ慣れたらちょっとは美味しいような気もするんですけど、ね……」
「ぷるぅん……!」
どうやらみんなも深いトラウマを負っているようだ。
やっぱりこの世界の人には梅干しは新し過ぎたのかな?
そんなことを考えながら、わたしはすかさずイリアちゃんに声をかけた。
「ほらイリアちゃん! まだ酸っぱさが残ってる内にご飯をかきこんで! そうすると酸っぱいのが中和されるから!」
「ひゃ、ひゃい~~~!!」
イリアちゃんはわたしの指示に従ってお弁当箱の左側に詰められているご飯をスプーンで一掬いした。
そして躊躇うことなく梅干しが残る口の中へとかきんだ。
そして固く目を閉じながらもぐもぐと食べると、やがてごくんっと喉を鳴らす。
わたしはアイテムボックスから用意しておいたお水を渡した。
「はい、これお水!」
「あ、ありがとうございますっ! ごきゅ、ごきゅ!」
イリアちゃんはわたしから水が入ったグラスを受けとると、ラッパ飲みのごとき勢いで水を流し込んだ。
そして、ぷはぁ~! と空になったグラスをテーブルに置いた。
と同時に、わたしに詰め寄ってくる。
「な、なな、なんなんですかこれ!?」
「さっきもちょっと言ったけど、梅干しっていうおかずだよ。わたしの故郷では、お弁当によく入れられている代名詞的な存在だったんだ」
「こ、このような食材がよく入れられていたんですか!? 罰ゲームとかじゃなく!?」
「罰ゲーム……で使われることもありそうだけど、基本は普通におかずとして食べるはずだよ」
まあ、罰ゲーム化しても全然通用するくらい食べる人間にダメージを与え得る力は秘めているけどね。
「うぅ、こんなすごい食材が日常的に食べられているなんて……オベントーは思っていた以上に奥が深そうです……!!」
イリアちゃんはひとり真剣な表情を浮かべながら、じっとお弁当箱の中身を凝視していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます