第239話 反射的に訂正しちゃう、ぽっちゃり
わたしのお弁当を二人にお披露目した後、アリアちゃんとイリアちゃんは同時にだし巻き玉子を口に運んだ。
もぐもぐと咀嚼して、姉妹らしく同じような表情で歓喜の声をあげる。
「んん~~! これ美味しい!」
「ほ、本当だね! これって玉子料理だと思うんだけど、あんまり見たことがない形だね……!」
「たしかに! たまに料理長とかが創作料理とかで見映えを良くするために四角い卵焼きを作ってるけど、それともどこか違うし!」
「もしかして、この箱に入ってる料理ってとっても高級品なんじゃ……!?」
「ああ、それはだし巻き玉子っていう料理だよ。作り方はちょっとコツがいるけど、慣れたら誰でも作れるような簡単なものだから、きっとアリアちゃんとイリアちゃんにも再現できると思うよ。あ、あとそのお弁当は別に高級品ってわけじゃないからね!」
なにかあらぬ方向に感想と推測が飛躍していってるような気がしたので、早めに現実を教えておく。
まあでも、たしかにだし巻き玉子って日本独自の料理だもんね。
外国とかじゃ中々食べられなさそうだし、そういう意味では中世ヨーロッパ的世界観で異国情緒あふれるこの街の住人なら、どこぞのシェフが気まぐれに作った創作料理だとか思われるのも無理はないのかもしれない。
ただ、あくまでもわたしはどこにでもいるようなごく普通の(元)女子高生だし、使っている食材も市場で買えるようなものばかりだ。
まあ市場では値段を見ずに大人買いしたから、相場的にちょっとお高めの食材もあるかもしれないけど、一般庶民でも頑張れば手が届くくらいの範囲の価格のものしかなかった記憶がある。
だからこのだし巻き玉子は決して高級料理なんかではないし、練習すれば誰でも作れるくらいの庶民的な料理なのだ。
唯一問題があるとしたら、この作り方を知らないということくらいだろう。
見習い姉妹はごくんと喉を鳴らしてだし巻き玉子を食した。
直後、姉のアリアちゃんが不思議そうな顔つきで一つの料理にフォークを刺した。
「玉子は美味しいけど、何だろうこれ? 変てこな形のウインナー? あ、もしかして触手型の魔物をイメージして作ったんじゃない!?」
「いや違うよ!? それたこさんウインナーだから! イメージしてるのはタコだよ!!」
アリアちゃんはフォークでたこさんウインナーを刺して目の前で凝視しながら、とんでもないことを言い出す。
たこさんウインナーを見てどうやったら触手型の魔物なんて発想が出てくるの!?
突然とんでもないことを口走るから変にむせちゃったよ!
わたしの訂正に、アリアちゃんは得心したように頷いた。
「ああ~! なるほど! たしかに言われてみればたこさんに見えるよな気がします! でもこれ、『触手ウインナー』みたいな名称で冒険者ギルドの前とかで露店だしたら売れそうじゃないですか!?」
「お、お姉ちゃん! それはさすがに失礼だよ!」
「いや絶対にそんな名前で売ったりなんかしないからね!? それはあくまでもたこさんだから!!」
わたしが強めに釘を刺しておくと、アリアちゃんは、残念です~、と気にしていなさそうな声音で返答した。
そしてパクリと頬張り、ほっぺに両手を添えた。
「んんっ!? このたこさんウインナー? も、すっごい美味しい!!」
「あはは……まさか触手扱いされるとは予想外だったけど、美味しいなら良かったよ」
わたしは少しぐったりとしながら元気にお弁当を食べるアリアちゃんに応えた。
すると、今度は隣に座っていたイリアちゃんが不思議そうな声をあげる。
「これってヤマト国の主食であるお米ですよね。ただ、この真ん中に乗ってる赤い果実のようなものはなんでしょう?」
イリアちゃんはスプーンで小さな赤い果実のようなもの――梅干しを掬い、疑問符を浮かべながら小首を傾げる。
その光景を見て、わたしの胸中にむくむくとイタズラ心が芽生えてくるのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます