第238話  フォローしちゃう、ぽっちゃり


 お弁当箱をご開帳してキラキラと目を輝かせているアリアちゃんとイリアちゃん。

 二人は初めて見る未知の料理に興味津々といった様子で、間近でお弁当箱に詰まったおかずやご飯を眺めている。

 二人に渡したのは、どちらも通常弁当だ。

 一番無難なベーシックなタイプのお弁当を試食してもらって、とりあえずお弁当というものはこういうものなんだということを理解してもらおう。

 スタミナ弁当とかのり弁みたいに他の商品もあるけど、いきなりこういうのだと面食らっちゃいそうだ。

 スタミナ弁当はシンプルに年頃の女の子であるアリアちゃんとイリアちゃんには多すぎるかもしれないし、のり弁は真っ黒い海苔がお弁当箱の半分を占領していたらビックリするだろう。

 そういった配慮も踏まえて、だし巻き玉子やウインナーなど警戒心を抱かなさそうな分かりやすいおかずだけで構成された通常弁当が最適だ。


「それじゃあぜひ食べていってもらいたいんだけど……このままじゃ食べられないね」


 アリアちゃんとイリアちゃんは二人ともいまにも飛び付きそうな勢いでお弁当に釘付け状態だけど、うっかりしていてお箸なんかの食べる道具がない。

 さすがの二人も素手で掴んで食べるほど理性を失っているわけじゃなさそうだし、ここはお箸なんかも提供すべきだろう。

 そう思ってアイテムボックスを発動させたと同時、はたと手を止める。


「あっ、そうだった。えーと、このお弁当って本当はお箸で食べるものなんだけど……二人は使えない、かな?」

「オハシ? なんですかそれ?」 

「あ、たしかヤマト国で使われている食器ですよね。ほら、お姉ちゃん。前に世界の料理がまとめられた本で読んだでしょ。私たちで言うところの、スプーンやフォークみたいなやつだよ」

「んんん……はっ! 思い出した! 言われてみればそんな物があったような気がする! たしか、二本の棒みたいなやつだったっけ?」

「そうだよ! だけど、お箸はスプーンとかと違って使えるようになるまでコツがいるって書いてたけど……」

「それじゃあ、私たちはお箸は使えない……?」

「た、多分」

 

 しょんぼりと項垂れる姉妹に、わたしは慌ててフォローをいれる。


「いやいや、お箸が使えなくても大丈夫だよ! フォークとスプーンで十分なんだから!」


 そもそも、このラグリージュに住む人は中世ヨーロッパ的な世界観で暮らしているから、箸を使える人が少ない。

 それはわたしたちの拠点であるベルオウンでも同様だ。

 だから箸が使えないっていうのはこの街の住人にとったらごく自然なことだし、何も恥じる必要はないと思う。

 それに、イリアちゃんも言っていたようにお箸は使えるようになるまで練習が必要という面倒な道具だからね。

 我々日本人は幼少期に受ける親からの訓練によっていつの間にか箸を扱えるようになっているけど、習熟難易度で言うならスプーンやフォークの方が圧倒的に簡単だし、使いやすいだろう。


 そうして二人を励ましつつ、わたしは木製のスプーンとフォークを一つずつアリアちゃんとイリアちゃんの前に置いた。

 これらはどれもサラがスキルを活用して作ってくれたお手製のものだ。

 品質はわたしが保証しよう。


「コロネさん、ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます……!」


 アリアちゃんは笑顔で、イリアちゃんは少し控えめにフォークを握った。

 わたしはテーブルを挟んで対面に座る二人に向けて、両手を広げる。


「ささっ、食べて食べて! アイテムボックスから出したばかりだから、今なら完全に冷めきる前に食べられるはずだよ!」

「はい! いただきます!」

「い、いただきます!」


 わたしに促されて、アリアちゃんとイリアちゃんはだし巻き玉子をフォークで突き刺した。

 さすがは姉妹。

 最初に選ぶおかずも同じなんだね。

 二人はフォークで刺した四角いだし巻き玉子を目の前で眺めると、意を決したようにパクリと口にした。


「んんんん~! な、なにこれ美味しい~~!!」

「ほ、本当だね……! この玉子料理、すっごく美味しい!!」


 姉妹は二人揃って同時に目を見開き、喜びの声をあげた。




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