第241話 感覚派と理論派の学びを得ちゃう、ぽっちゃり
イリアちゃんに梅干しのイタズラを仕掛けてからしばらく。
わたしが提供したお水でそれなりに回復したらしく、復活したイリアちゃんはポケットからメモを取り出して懸命に何かを書いていた。
それを対面で見ていたわたしは、脳裏に浮かんだ疑問を口にする。
「イリアちゃん。さっきから何をメモしてるの?」
「あ、これは今まで食べたオベントーの具材や味の感想なんかを記録しているんです。後から見返して勉強したいと思いまして。そ、それにさっきの梅干し? っていう食材は特に衝撃的なものでしたので……!」
「あはは、梅干しはまあ、そうだよね」
日本人でも梅干しが苦手な人はいるし。
慣れれば美味しいんじゃないかなと思うんだけど、さすがに初見の異世界人には刺激的すぎたかな。
ちょっと申し訳なく思う気持ちもあるけど、一方で仮に今お弁当で梅干しと出会わなくても、この先厨房に入ってもらってお弁当作りを手伝ってくれるなら、いずれ絶対に目にすることになる食材だった。
その時になったら、きっと真面目で好奇心旺盛なイリアちゃんは気になって梅干しを食べていたことだろう。
つまり、一度イリアちゃんが梅干しに驚愕するという流れは止めようがないのだ。
だからどうかわたしを恨まないでね。
わたしは心の中で贖罪を済ませてから、イリアちゃんに向き直る。
「でも、こんな時にまでメモをとってるなんて、イリアちゃんは勉強熱心なんだね」
「い、いえいえ私なんて全然です! まだ色んなことが理解できていないですし、本当に知らないことばかりで料理ってとっても奥が深いなって毎日思い知らされることばっかりですから」
「そうなんだ。だけど、毎日コツコツとそうやって分からないことや新しく知ったことをメモして少しずつ蓄えていったら、いつかきっと料理界で大物になってるはずだよ! 自信持って!」
「え、えへへ。そ、そうですかね……? コロネさんにそう言っていただけると、人一倍嬉しいです!」
イリアちゃんは恥ずかしそうに照れながら小さく笑った。
その可愛らしい仕草に、わたしも思わず笑みがこぼれる。
それと同時、イリアちゃんの目の前に置かれたお弁当箱にはまだご飯やおかずが残っていることに目がいった。
「さあ、メモが一段落したら、また食べてくれると嬉しいな! 一応サラダとかも入れてあるし、味変もできるよ!」
「も、もちろんです! こんな貴重な料理、残すなんてとんでもありません! ありがたく、全部頂戴いたします!!」
わたしの言葉を受けたイリアちゃんは急いでメモの上にペンを走らせて、シュバババと筆記を済ませていく。
そして、ものの数秒で書き終えたらしく、すぐにお弁当箱とスプーンを手にして食事を再開させた。
パクッと口に料理を運ぶと、途端に綻んだ表情になっている。
梅干しで一波乱はあったものの、その他のご飯やおかずは普通に美味しく食べてくれているようで安心だね。
そんなことを考えていると、ふとイリアちゃんの隣で黙々とスプーンを進めるアリアちゃんに気付いた。
「そういえば、アリアちゃんはメモとか書いたりしないんだね? ああ、いや別にメモをしろって言ってる訳じゃないんだけどさ」
「? ああ、そうですね。私はイリアとは違って、感覚で覚えるタイプなんで! メモとかで一々記録に残すよりも、いま自分の口の中にある料理を正確に記憶して、それを再現できるようトライアンドエラーを繰り返すっていうのが私流のやり方なんで! あわよくば、目標にしていた料理を越える一品を自分の手から生み出せたなら本望ですね!!」
「へぇ、そうなんだ。双子の姉妹だって聞いてたけど、二人とも料理のスタイルが違うんだね」
言うなれば、感覚のアリアちゃんと理論のイリアちゃんといった感じだろうか。
どちらにも一長一短はありそうだけど、それを姉妹の絆で乗り越えられればとんでもない料理人に化けるかもしれないね。
わたしはそんな二人の華やかな未来を思い描きながら、アイテムボックスから出したお水をくいっと飲み干した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます