第150話  絶景を堪能しちゃう、ぽっちゃり


 まさか異世界にエレベーターなんていう現代的な設備があることに驚きつつ、最上階まで到着するのを待っていると、チーン! とベルが鳴った。

 どうやら、一番上の階についたみたいだ。

 数秒待った後、ゆっくりとエレベーターの扉が開かれていく。


「今回コロネさんにご用意させていただいた部屋は、この最上階の角部屋になります」


 エレベーターの扉が開いた向こうには、赤いカーペットが敷かれた豪華な廊下が広がっていた。

 ドルートさんが先に降りて、わたしたちはその後を着いていく。

 廊下を端まで歩いていくと、最奥の部屋の扉の前で再び立ち止まった。


「それではコロネさん、こちらの扉に鍵を差し込んでください」

「わ、わかった」


 わたしが少し緊張しつつ鍵穴にルームキーを差し込んだ瞬間、ガチャンと自動的に鍵が内部で回転した。

 そして、扉の内部で厳重にロックされていた施錠機能がガチャガチャと解除された。


「こ、これでいいのかな?」

「はい。どうぞ、中へお入りください」


 わたしは期待を膨らませながらルームキーを抜いて、扉を開いた。

 その瞬間、一面ガラス張りの室内から、外の景色が目に飛び込んできた。


「うわぁあああ! すっごい綺麗な景色!」


 思わずたたたっと駆け出し、ラグリージュのオーシャンビューを堪能する。

 広大な青い海、ラグリージュの雰囲気を匂わせる港町、そしてそれらを一望できるバルコニー!

 まさに絶景!

 素晴らしきお部屋だよ!


「どうですかな、コロネさん。ここはウチの宿の中でも特に良い景色が一望できる部屋なのですが」

「すごいよ! まさかこんなに綺麗な景色が見れるなんて思わなかった!」

「はは、気に入っていただけたようで何よりです」


 感動してハイテンションになっているわたしに、ドルートさんは笑顔で頷いてくれる。

 ガラスに張りついて景色を眺めていると、隣にいたナターリャちゃんがおもむろに指をさした。


「見てみてコロネお姉ちゃん! あそこのお店、さっきナターリャたちが食べてたところじゃない!?」

「わたしたちが食べてたところってあの海鮮チャーハンの? んん……わたしには見えないな」

「え~! あそこの道の右側にあるのにぃ!」


 ナターリャちゃんは唇を尖らせて残念そうな顔をする。

 わたしももう一回目を凝らしてみるけど、遠すぎてとても一軒一軒の店なんて判別できない。

 やっぱりエルフだから視力もずば抜けてるのかな?

 平均的な人間の視力しかないわたしには追い付けない領域だ。


 わたしたちのやり取りを後ろで見ていたドルートさんが助け船を出してくれた。


「コロネさん。よろしければバルコニーに出ることもできますよ」

「ほんと!? それじゃあ折角だから外に出てみようかな!」


 ドルートさんの許可をもらったわたしは、ガラス張り建築の壁面から鍵を探し、ロックを外した。

 両開きのガラス壁を押して開くと、ぶわっと強い風が吹いてきた。

 爽やかな海の香りを含んだ風を全身に浴びながら、わたしたちはバルコニーに飛び出した。

 心地よい風に髪をなびかせながら眺めるラグリージュの街は、さっき室内から見た時よりもずっと心が動かされる。

 そして密かにさっきナターリャちゃんが言っていたお店の方を見てみたけど、やっぱりわたしには何も見えなかった。


「いやぁ~、気持ちいい風だね! こんな景色わたしの住んでるお屋敷じゃ絶対見れないし、これだけでもラグリージュに来た甲斐があるってもんだよ!」

「そうですねぇ~、私もこんなにいいお部屋に泊まったのは数えるほどしかありませんよぉ」 

「エミリーは前にオリビアに仕えてたんだよね? 一緒にこんなホテルに泊まったりしなかったの?」

「いやいやぁ、私なんてしがないメイドの一人ですから。オリビア様がアルバート様と一緒に外泊された際はこのような最上級のお部屋に泊まられたそうですけど、その時は私よりももっと上のメイド長がご一緒されましたからぁ」 

「そうなんだ。オリビア付きのメイドとはいっても、ずっと一緒にいるってわけじゃないんだね」

「そうですねぇ。私は基本的にお屋敷内でのみお仕事をしておりました」


 エミリーはオリビアのお世話をしていたって言ってたけど、外出する時は別のメイドが担当していたんだね。


「ですから余計に思うんですけど、これだけ豪華なお部屋って、一泊いくらぐらいするんでしょうね?」

「…………たしかに」


 わたしは恐る恐る振り返って、後ろにいたドルートさんに向き直る。


「あの、ドルートさん。ここのお部屋って一泊いくらぐらいするの?」

「この部屋ですか? そうですねぇ、時期にもよるのですが、今は海豊祭の開催直前ですから……ざっと一泊で白金貨はっきんか三枚くらいでしょうか?」

「は、はは、白金貨三枚!!?」


 白金貨は一枚およそ百万円。

 それが三枚。

 つまり、このお部屋は一泊三百万円もする超スイートルームってこと!!?


 絶対にわたしみたいな平凡な(元)女子高生が泊まっていいようなお部屋じゃないよね!?




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