第149話  豪華な宿に到着しちゃう、ぽっちゃり


 ナターリャちゃんにポテト屋さん出店の後押しをされつつ、馬車に戻ったわたしたち。

 その後、ドルートさんの商会が運営するという宿に向けて出発し、一時間ほど揺られると、ほどなくして馬車が停車した。

 それと同時、車内にいたドルートさんがわたしに向き直る。


「コロネ様、お待たせいたしました。宿についたようです」

「あ、ついた? いやぁ、どんな宿なのか楽しみだなぁ!」

「ありがとうございます。それでは皆さん、馬車を降りましょうか」


 わたしの褒め言葉にリベッカさんが笑顔で返してくれた。

 そしてドルートさんたちに促されつつ、わたしたちは続々と馬車を降りていく。

 その瞬間、ぶわっと潮風が吹き抜けた。

 風を全身で感じていると、視界には巨大な海が広がっていた。

 向こうの方には港らしきエリアもあって、大きな船が何隻も停留しており、物資の運搬をしている人々もたくさん見える。


「わぁ! 大きな海が見えるね!」

「ほんとだ! ナターリャ、海で遊びたい!」

「う、海で? うーん、でも今は一回宿に行こうか! それで時間が余ってたらちょっと海をぶらついてもいいし!」

「うん! そうする!」


 聞き分けのいいナターリャちゃんに安心していると、ドルートさんが声をかけてきた。


「コロネさん、ここまでの長旅お疲れさまでした。こちらが、我々が運営している宿になります!」

「ここがドルートさんの宿……ってデカッ!?」


 両手を広げてアピールするドルートさんの背後に広がっていたのは、めちゃくちゃ大きな建物だった。

 建物だけでいえば、ベルオウンにあるわたしのお屋敷より大きいかもしれない。

 しかも階数も十階建てくらいはありそうで、パッと見でわかるほど豪華な宿だということがわかる。

 いや、これはイメージ的には宿というよりもホテルと言った方が適切かもしれない。

 ベルオウンで泊まった宿とは規模も雰囲気も全く異なっている。

 

「ささっ、皆さん。どうぞこちらへお入りください」

「う、うん」

「すごーい! とっても大きな宿だー!」

「や、宿ひとつでこれほどの規模とは……さすがはドルート様ですね……」

「こ、これはえらいでっかい宿でんなぁ!」

「ぷるーん!」


 予想外の宿の巨大さにわたしたちは全員ビックリしつつも、ドルートさんたちの後についていく。

 入り口の豪華なガラス張りの扉を開けて、広いエントランスに入った。

 ドルートさんはそのまま一直線に受付の所まで歩いていく。


「私だ。部屋の準備はできているかな?」

「こ、これはドルート様! お待ちしておりました。承っていたお部屋のご準備は済んでおります」


 ドルートさんが話しかけた瞬間、受付の男性は背筋をただして緊張した面持ちで答えた。

 やっぱり店のオーナーが直接来たら緊張するものなんだね。

 しかもドルートさんはそんじょそこらの経営者じゃなくて王国トップレベルの商会をまとめあげている人だから、より緊張感が走るのかもしれない。

 実際、受付からフロントを片付けている掃除の人までドルートさんが宿に入ってから一気に緊迫した表情になったもんね。


「私共から提供させていただくお部屋は最上階の一室になります。こちらがルームキーです」

「あ、ありがとうございます」


 ドルートさんの一歩後ろにいたわたしに、受付の人が鍵を渡してきた。

 わたしが鍵を受け取ると、ドルートさんがこちらへ振り返った。


「それではお部屋へ参りましょうか」


 再びドルートさんの後ろを歩いていくと、広い廊下の中ほどで止まった。

 わたしはそこの壁にあった扉を見て、驚きに目を見開く。


「え、これってエレベーター!?」

「はい。魔力式のエレベーターです。このようにボタンに手をかざすと、予め蓄えていた魔力を消費して扉が開きます」


 ドルートさんがボタンの前に手をかざすと、数秒たった後で、チーン! と扉が開いた。

 中にはシックな装いの個室が広がっていて、ドルートさんが先導する形でエレベーターへ入っていった。


「まさか異世界にエレベーターがあるなんて……これが豪華ホテルの設備なのか……! てか、ドルートさんはいつの間にこの宿に来ること連絡してたの?」

「先ほど、三十分ほどあった自由時間の内に連絡しておきました。偶然、近くに私の商会の系列店がありましたので、そこから使いの者を送ってもらい、言伝を頼んだのです」


 自由時間と言えば、ちょうどわたしがナターリャちゃんと一緒に海鮮チャーハンを食べまくっていた時だね。

 その間にここまでスムーズに話をつけてくれているなんて、さすがはドルートさんだ。

 伊達に〈アイゼンハワー商会〉を取り仕切っているわけじゃないね。


 わたしはドルートさんの敏腕商人としての力量を改めて実感しながら、ぐんぐんと昇っていくエレベーターの中で待機していた。




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