第148話 外堀を埋められちゃう、ぽっちゃり
海鮮チャーハンを美味しくいただき、何杯か大盛りをおかわりして幸せ気分に浸っているところで、ふとナターリャちゃんが飲んでいたお水を置いた。
「ねぇ、コロネお姉ちゃん。そろそろ戻った方がいいんじゃないかなぁ?」
「え、戻るってどこに……ハッ!」
ナターリャちゃんに言われて、わたしははたと思い出す。
そうだ!
この海鮮チャーハンが美味しすぎて食べることに没頭してしまったけど、今はほんの一時の自由時間に過ぎないんだった!
「ぐぬぬ、まだ全然食べたりないんだけど……皆を待たせるのも申し訳ないからな……ここは仕方ない。一旦馬車に帰ろうか」
はっきり言ってまだ腹一分目も到達してないくらいだけど、このまま満足するまで海鮮チャーハンを食べ続けたら大幅に時間を押すことになる。
ドルートさんが案内してくれる宿にも行かないといけないし、今日はここらで切り上げるか……。
何とも口惜しいが、ラグリージュに来たのは今日が初日。
別に明日や明後日に帰るつもりもないし、一週間くらいは滞在しようかと思ってるから、その間にまた食べにきたらいいよね。
「ナターリャちゃんはもう大丈夫?」
「うん! いつでも出れるよ!」
「オッケー! それじゃ、馬車に戻ろうか」
わたしは立ち上がり、店から出る間際に店主のおじさんに一言声をかけた。
「おじさん、ごちそうさま! チャーハンとっても美味しかったよ!」
「ナターリャも美味しかった~!」
「お、ありがとな! 嬢ちゃんの食いっぷりには驚いたが、ぜひまた食べに来てくれよ!」
おじさんとの挨拶を済ませたわたしたちは、来た道を戻っていく。
相変わらずラグリージュの街は人通りが多いので、はぐれないようにナターリャちゃんと手を繋いで二人で歩いた。
すると、ナターリャちゃんが少し興奮した様子で話しかけてきた。
「そう言えば、さっき王女様が来るって言ってたよね!」
「ん? ああ、久しぶりの
「この国の王女様ってどんな人なんだろ~! ナターリャ見てみたいな~!」
「わたしも見てみたいね! まあ、この国の王女様がわたしたちの前に姿を現してくれるかわからないけど」
王女様といえばこの国の最高権力者である王族の一員だ。
オリビアやアルバートさんみたいな領主様も貴族でとても位が高い人だけど、そんな人たちよりも遥か高みにいるのが王族だろう。
それほど高貴な身分の人がそう易々とわたしたち一般人の前に姿を現してくれるのだろうか。
でも、
もし一目見れる機会があれば、ちょっと寄ってみてもいいかもね。
そこら辺のことも後でドルートさんに聞いてみよう。
ひとまずその程度の認識で納得していると、ナターリャちゃんはぎゅっとわたしと繋いでいる手に力を込めた。
「コロネお姉ちゃん! これはチャンスだよ!」
「え、チャンス?」
「そう! よく思い出してコロネお姉ちゃん。さっきのおじさんは、王女様がラグリージュに来ることも言ってたけど、もう一つ、お店の売上がいいと王女様に料理を食べてもらえるって言ってたでしょ!」
「ああ、そんなことも言ってたね。まあ、まだ噂レベルらしいけど」
「それでナターリャ閃いちゃったんだ!」
「閃いたって何を?」
わたしが聞き返すと、ナターリャちゃんはしたり顔で人差し指をピンっと立てた。
「ずばり! コロネお姉ちゃんがお店を出して、それでたくさんのお客さんに料理を食べてもらえば、王女様に会えるってことだよ!」
「……ええっ!? な、なにそれ!?」
突拍子もない発言に、わたしは驚きに声をあげる。
「だって、たくさんのお客さんに料理を食べてもらったら、それだけお金がもらえるでしょ? それでお店の売上が上がったら、王女様に自分の作った料理を食べてもらえるっておじさんが言ってたから!」
「い、いや、まあ現時点の話ではそうなるかもしれないけど、わたしお店で売れる料理なんてないよ!」
「なに言ってるのコロネお姉ちゃん! ポテトっていう、あんなに美味しい料理があるのに!!」
「ぬぐっ……わ、忘れてた。そう言えばドルートさんにも店を出せって進められてたっけ……」
たしかにポテトは美味しいし、お祭りの時とかも売ってるから出店向きではあると思う。
だけどここには色々な国や地方からやって来た人たちが多種多様な料理を提供してるらしいし、そんな激戦区にポテト一つひっさげた素人のわたしが入り込んで売上上位に食い込める自信はないんだけど……。
それに万が一上位になったとしても、こんなジャンキーなポテトとか王女様に食べさせていいの?
不敬罪とかで処罰されそうで怖いんだけど。
ポテトってただ単にジャガイモ切って水に浸して油で揚げて塩かけるだけだからね。
練習すればマジで子供でも作れるようなレベルの料理だから、王女様が口にするに相応しい物とは思えないんですが……!
「コロネお姉ちゃんの料理を王女様に食べてもらうの楽しみだなぁ! ポテトはとっても美味しいから、きっと王女様もほっぺた落ちちゃうよね!」
「そ、そうなのかな……?」
なんかもうナターリャちゃんの頭の中ではわたしのお店が売上上位に名を連ねて王女様にポテトを提供している未来が見えているようだ。
別にわたしはそこまでお店を開くことに乗り気じゃないんだけど……何だか少しずつ外堀を埋められていってる気がする……!!
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