第151話  エミリーと別れちゃう、ぽっちゃり


 ドルートさんに案内された、最上階の部屋は広さも設備も立地もまさにスイートルームと呼ぶに相応しいものだった。

 こんな超豪華な部屋に訪れたことなどもちろんないわたしはテンション爆上がりで騒いでしまった。

 あれから冷静になった今となっては少し恥ずかしい気もするけど、まあ他の皆もわたしとそう変わらないくらい大はしゃぎしてたから気にしないでおこう。

 この部屋の探索をあらかた済ませたわたしたちはリビングにある豪華でふかふかのソファにどっかりと体を預けてリラックスしていた。


 そんなわたしの前に、おもむろにドルートさんがやって来た。


「それではコロネさん、私はこれで失礼させていただきます。ひとまず三泊分は押さえてありますので、その間はどうぞこちらにお泊まりください」

「えっ!? さ、三日も泊まっていいの!?」

「はは、勿論ですとも」


 ちなみにこのお部屋は一泊で白金貨三枚、日本円でおよそ三百万円。

 それが三日分ということは、単純に合計で九百万円相当!?

 ほほ一千万円じゃん!!

 たった三日で一千万円とか規格外すぎてもはやどれくらい凄いのかよくわからなくなってきたよ!?


 わたしがその金額に驚愕していると、続けざまにドルートさんは笑顔で口を開く。


「それと、夜になりましたらこの最上階のお部屋にディナーが運ばれて来ますので、ぜひお楽しみください。ウチの料理長が腕を振るった絶品ですから」

「り、料理長のディナーだって!?」

「はい。王都でも指折りの料理人をスカウトしてきておりますので、味は保障いたしますよ」

「そ、それは楽しみにしておくよ……!」


 じゅるりとよだれを拭きながら答えると、ドルートさんは礼儀正しい所作で一礼してこの部屋を出ていった。

 バタン、と玄関の扉が閉められた音を聞いて、わたしはどっかりとソファに体を預ける。


「いやぁ、それにしてもまさかディナーまであるなんて……至れり尽くせりだね」

「コロネお姉ちゃん、ディナーってなに? 夜ご飯?」

「ただの夜ご飯じゃないよ! わたしもディナーとか食べたことないからよく知らないけど、とにかく豪華で美味しい料理がたくさん出てくるんだよ!」

「そうなんだ! すごーい!」

「そないぎょうさん絶品料理が運ばれてきたらたまりまへんなぁ!」

「ぷるーん!」


 わたしのディナー解説に、ナターリャちゃんと従魔たちがソファの上ではしゃぎだした。

 うんうん、気持ちはわかるよ。

 わたしも今からディナーに心踊ってるもん。


 すると、真向かいに座っていたエミリーがおずおずと手を上げた。


「コロネ様、それでは私はそろそろ……」

「え? ああ、エミリーは実家に帰るんだったよね」

「はい。申し訳ないのですが、本日はこの辺りでお暇をいただいてもよろしいでしょうか……?」

「うん、それは全然いいんだけど、せっかくだしこの宿のディナーを食べてから行ったらいいんじゃない?」


 ドルートさんおすすめのディナーは、なんでも料理長自らが作ってくれた料理らしいからね。

 こんな高級ホテルみたいな宿で料理長をしている人なんて、きっととんでもない料理の達人なんだろう。

 そんな人が腕によりをかけて作るディナーなんて、絶対美味しいに決まってるもんね!!


 せっかく絶品の料理が提供されるチャンスがというのに、それを食べずに行ってしまうのは少し、いやかなりもったいない気がする!

 そう思ってエミリーにディナー後に帰るのはどうかと提案してみたんだけど、エミリーは残念そうに首を振った。


「申し訳ございません。コロネ様のご厚意は大変ありがたいのですが、私の実家はここから少し距離がありまして……。夜になってからこの宿を出発してしまうと、乗り合いの馬車を捕まえられなくなるかもしれませんし、何より夜遅くに実家に帰ると色々と困らせてしまうかもしれませんので……!」

「そっか……たしかにそれもそうだね! わかった!」

「あ、ありがとうございます! 明日の朝にはまた戻って参りますので。あ、しかし私のことは気にせず皆さまはご自由にお過ごしくださいね!」

「ありがとう! エミリーも久しぶりの帰省なんだからわたしたちのことは気にしなくていいからね!」


 エミリーは感激した様子で立ち上がると、名残惜しそうにこの部屋を出ていった。

 パタン……、とどこか哀愁を感じさせる扉の音を響かせながら、エミリーは実家へと帰っていった。

 とはいえ、別に明日になればまたエミリーとは会える。

 明日の朝にわたしたちの元に帰ってくるって言ってたけど、ゆっくり実家で過ごしてくれてもいいんだけどな。

 また明日エミリーと会ったら改めて伝えておこう。


 わたしはエミリーとの別れに少しばかし寂しさを感じながら、旅の疲れを癒すようにソファの中に体を沈めていった。



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