第138話 ケチャップに感動しちゃう、ぽっちゃり
「ドルートさん! どうかわたしにケチャップを恵んでください!!」
わたしはドルートさんの肩をつかみながら懇願した。
愚痴をこぼすような感じで、ケチャップがあったらな~、と呟いたけど、まさか本当に持ってるなんて!
これを逃すわけにはいかない。
是が非でもケチャップを譲ってもらわねば……!
血走った目で肩をつかまれるドルートさんは、少し困惑しながら了承してくれた。
「え、ええ。もちろん構いませんよ」
「本当!? ありがとう!!」
「……ふむ、確かにこのポテトという料理にはケチャップが合いそうですな」
「そうなんだよ! わたしの元いた……じゃなくて、故郷ではポテトにケチャップをつけて食べると激ウマなんだよね!」
昔よく食べていたポテトの味を思いだし、無意識に表情がゆるむ。
特にピザとかのサイドメニューについてくるポテトは、今わたしが作ったみたいな半円形の物があったから、よくケチャップにディップして食べまくってたなぁ。
おっと、いけないいけない。
思い出していたらよだれが出てしまう。
ドルートさんはアイテム袋から小瓶を取り出し、蓋を開けた。
中はドロッとした赤い調味料が入っていて、ふわりと濃厚なトマトの香りが漂ってくる。
「おお! これがケチャップ!?」
「はい。これは我が〈アイゼンハワー商会〉で取り扱っている一級品のケチャップです。材料のトマトから拘って選別し、濃厚な風味と味わいに仕上げました」
「へぇ、それじゃあやっばりちょっとお高めのやつ?」
「そうですねぇ、まあ少し値は張りますが、そこまで高額な訳ではありません。トマトの収穫量によって価格は多少前後しますが、大体この瓶に入ったもので一つ銀貨五枚くらいです」
「えっ、これ一個で銀貨五枚!?」
わたしはドルートさんが手にしているケチャップを見ながら驚きの声をあげる。
銀貨一枚が日本円でざっと千円くらいだから、銀貨五枚なら約五千円。
対してこのケチャップは手のひらサイズの小瓶に入っていて、よくスーパーで売っているケチャップの半分くらいの量しかなさそうだ。
いや、これどう考えても高級ケチャップだよね?
そもそも一つ五千円もかかるケチャップなんて聞いたことないし……!
だけど、それだけ高級なら味わいもまた格別なはず。
ケチャップをディップする相手として不足はないね。
「それじゃあ、ちょっとケチャップをもらうね。サラ、何枚か小皿を出してくれる?」
「ぷるーん!」
サラは元気に返事をすると、ぽよんと跳ねてテーブルの上に手のひらサイズの小皿を数枚作り出した。
わたしはドルートさんから小瓶を受け取り、風魔法を応用してケチャップをすくいとる。
そのままケチャップを空中でふわふわと漂わせると、それぞれの小皿に適量を移していった。
とりあえず、わたし、サラ、ナターリャちゃん、ドルートさんの四人分だ。
「はい! みんなの分のケチャップを移したから、ポテトをつけて食べてみて!」
「わあ! ありがとうコロネお姉ちゃん!」
「ありがとうございます、コロネさん」
「ぷるーん!」
各々、小皿を受け取ってポテトをつまんでいく。
わたしも出遅れないように、ポテトが山盛り積まれたトレイから大きめのポテトをつかんで、その先端をケチャップにつけた。
こんがり揚がったポテトに、つやつやと輝くケチャップが彩りを加えている。
わたしは高揚感に包まれながら、一思いにポテトを口に入れた。
その瞬間、ジューシーでホクホクなポテトと濃厚なケチャップの香りが口いっぱいに広がった。
「うっわ、
半ば感動を覚えながらケチャップつきポテトを頬張っていると、周りからも喜びの声が聞こえてくる。
「コロネお姉ちゃん! ポテトにこの赤いのつけたらとっても美味しいよ!!」
「これは……本当に美味しいですな! このポテトにケチャップがほどよく絡みついてクセになる!」
「ぷるるーん!」
皆もケチャップつきポテトはたまらないようだ。
パクパクと次から次へとポテトをケチャップにつけて食べまくっている。
脇目を振らず、とはこういうことを言うのかもしれない。
わたしも負けじと、ポテトをつまんでたっぷりとケチャップをつけて頬張った。
んんん~~~!
美味しい~~!!
この夜、草原の一角にて、ポテト×ケチャップというとんでもない一品を異世界に生み出してしまった瞬間だった。
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