第57話 貴族令嬢に侵入されちゃう、ぽっちゃり
キラキラと反射する朝日が、わたしの意識をゆっくりと覚醒させた。
「んん……もう朝ぁ……?」
ベッドの下を見ると、サラとわいちゃんがお互い身を寄せあって眠っている。
昨日はトンテキを皆で味わったあと、クエストで疲れたからということで早めに眠りについたんだった。
わたしは別に平気かと思っていたんだけど、ベッドに入ってしまったらいつの間にか爆睡してしまっていたようだ。
ナターリャちゃんの姿が見えないと思ったけど、そう言えばわたしの隣の部屋に一人で寝泊まりしているんだった。
「朝かぁ…………だけどなぁ」
わたしは一度起き上がろうか迷ってから、やっぱり体を起こすのはやめた。
なんだか今日はまだ起きたくない。
わたしの脳はまだまだ寝なさいと言っている。
というわけで、朝日が目を刺激してこないようにわたしはバサッと布団を頭から被った。
「ふふん……これでもっと寝れるぅ…………むにゃむにゃ……」
二度寝は最高だ。
まさに人類が味わえる至福の一時といって良いだろう。
睡眠は食事の次にわたしが溺れる欲求かもしれないね。
そんなとりとめもないことを思いながら、わたしが心地よいまどろみの中に沈もうとしたその時――
「おはようございまーす!! コロネさん、起きてますかーーー!!!」
「ふわぁっ!!?」
「な、なんやぁ!?」
「ぷるるん!?」
部屋の扉が無遠慮に開けられ、大きな声で挨拶された。
突然の事態にビックリして、わたしは布団をはねのけて起き上がる。
い、一体なにごと!!?
なにか火事とか泥棒とか事件があったの!?
わたしが目をパチパチさせながら扉の方を見ると、そこには一人の女の子が立っていた。
高級そうなドレスに、流れるような銀髪。
品のある雰囲気の中には、まだ子供らしい天真爛漫さを感じられる。
最後にその女の子の顔を見て、わたしは驚いて名前を呼ぶ。
「オ、オリビア!?」
この街ベルオウンを治める領主の娘。
生粋の貴族令嬢であるオリビアがぱぁぁと笑顔になっていく。
「コロネさーん! お会いしたかったですーー!!」
両手を突き出したオリビアはベッドにダイブしてきて、わたしに抱きついてくる。
突然の事態にわたしの頭が追いつかない。
「ち、ちょちょちょ、いきなりやって来てなにしてんのさ! は、離れてよ!」
「い~や~で~す~! ぽわぽわのお腹あったか~い……!」
「あったかいじゃない! 今からわたしは気持ちよく二度寝しようと思ってたの! だから引っ付かないでもらえるかな!?」
「それでは私も一緒に寝ます! コロネさんと添い寝すれば問題ないですよね?」
「いや、あるよ! 大アリだよ!」
わたしに抱きついてくるオリビアと、そんなオリビアを引き剥がそうとするわたし。
ベッドの上で両者譲らぬ攻防を、同じくオリビアに叩き起こされた従魔たちがポカンと見つめている。
「こ、これは一体何が起こってるんや? サラはん、状況わかりまっか?」
「ぷるぷる」
わいちゃんの問いに、サラはぷるぷると横に震えて否定する。
そりゃあ、サラにわかる訳ないよね。
だって事態の中心にいるわたしだって何事かわかってないんだから。
だからオリビアから状況を聞くためにも、ここは少し強引な手を使わせてもらおう。
わたしは体に
「展開、ボディバリア!」
昨日アーミータラテクト戦のあと改良した新型のバリア魔法を発動する。
このバリア魔法はわたしの体の表面をなぞるようにして展開され、抱きついてきていたオリビアとの間に無理やり障壁をはさんだ。
「な、なんですかこれは!? ま、まさか防御系の魔法!?」
「さあこれでわたしには指一本触れられないよ。それで、何しに来たのか説明してもらおうか!」
「うぅ、説明するのは構いませんが、もう少しコロネさんとじゃれあいたいです」
「話す気がないなら、このままバリアを広げて物理的にオリビアを部屋から追い出すよ」
わたしは少しだけボディバリアの範囲を広げて、オリビアにぐぐぐ……っと圧力をかける。
わたしが本気だということを理解したのか、オリビアは慌ててベッドから降りて手を振った。
「わ、わかりました! 話します! 話しますから、物騒なマネはやめてください!」
わたしに絡みつくのを諦めたようなので、ようやくわたしも一息つくことができる。
「全く、何の用か知らないけど、仮にも領主の娘が一人でこんな宿屋の客の部屋に突撃するなんて――」
「悪いが、俺もいるぞ」
わたしが話していると、部屋にまた新たな人物が入ってきた。
誰かと見てみると、そこに立っていたのはすっごいイケオジだった。
すさまじい権威が感じられる服装を身にまとったこのイケオジは――
「ア、アルバートさん!?」
「しばらくだなコロネ。と言っても、一昨日ぶりか」
この人はオリビアの父親――そしてこの街を治める領主様その人だった。
オリビアだけじゃなくてアルバートさんもいたんかい!
「いや、二人もそろってどうしてここに? てか、なんでわたしが寝泊まりしてるところがここだって知ってるの!?」
アルバートさんが出てきたとはいえ、いやだからこそ、知りたいことというか問い詰めたい点はいくつもある。
ジト目で詰問するわたしから、アルバートさんは気まずそうに目をそらした。
「いや、違うぞコロネ。俺はまだ朝だから昼頃に向かおうと言ったんだが……」
「コロネさんと少しでも早く会いたくて、気づいたら来ちゃってました!」
いや、来ちゃってました、じゃないよ!
そんな可愛く言ってもごまかされないからね!
わたしはため息をつきながら、話を本題に戻す。
「それで、貴族様が二人もそろってどうしてわたしの宿に?」
オリビアは、その質問を待ってましたと言わんばかりに不敵に笑う。
そして力強い口調で、わたしに宣言した。
「お喜びくださいコロネさん! 今日はコロネさんへのお礼の品が決定したので、ご連絡に来たのです!!」
オリビアの高らかな宣言を受けたわたしは、ポカーンと口を開けるしかなかった。
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