第56話  パーティで夕食を囲んじゃう、ぽっちゃり


「ふぅ~! 危なかったぁ! ギリギリ晩ご飯に間に合って良かったね、ナターリャちゃん!」

「う、うん……」


 わたしとナターリャちゃんは、テーブルを挟んで向かい合って座っている。

 ここはルカの宿屋の食堂だ。

 周りには、同じ宿泊客であろうおじさんたちが談笑しながら料理の到着を待っていたり、中にはもうご飯を食べている人もいる。

 美味しそうな匂いが漂ってきて大変けしからん。

 

「でも、お姫様抱っこで突っ走るのは恥ずかしかったよぉ……」


 爽やかに汗を拭うわたしとは対照的に、ナターリャちゃんはぐったりと疲れた様子だ。

 さっきのお姫様抱っこが効いているみたい。

 ごめんよ。

 さっきはああしないと晩ご飯がなくなっていたかもしれなかったから、仕方なかったんだよ。


 わたしが心の中でナターリャちゃんに謝罪していると、同じくテーブルの上でくつろぐわいちゃんがサラに話しかける。


「と、突然ご主人が暴走しだすから何事かと思ったんやけど、この店のご飯が目当てやったんか……」

「ぷるん!」

「サラはん、ご主人はご飯のことになるとこないに暴走してまうんか?」

「ぷるーん!」


 サラはジャンプして元気良く答えた。

 どうやら、サラにも食いしん坊キャラだと思われているようだ。

 それに関しては全く否定のしようがないので黙るしかない。

 わたしは食に生きている女だからね。


「お待たせしましたー! こちら本日の夕食のオークステーキになりまーす!」


 ナターリャちゃんたちと談笑していると、ルカがお盆に乗せた料理を運んできてくれた。

 お皿の上には、こんがり焼き目がついた大ぶりのトンテキ。

 トンテキの横には彩りとしてのキャベツの千切りとトマトが添えられている。


「おおおおお!! これがオークステーキか! とっても美味しそう!」

「もう、コロネさん遅いから本当に夕食抜きになっちゃうかと思いましたよ~」

「あはは、ごめんごめん。でも、間に合うように飛ばしてきた甲斐があったよ」

「そんなにウチの宿の料理を気に入っていただけて嬉しいです」


 ルカは嬉しそうに笑いながら、パンやスープ、水などを用意してくれる。

 そしてふと、ルカの視線がナターリャちゃんに向いた。


「それで……こちらの女の子はコロネさんのお知り合いですか?」

「うん。ナターリャちゃんっていうんだ。今日からわたしのパーティメンバーになったの」

「へぇ~! コロネさんのパーティの方なんですか!」

「ナターリャです。よ、よろしくお願いします」

「私はルカです……って、さっき受付した時に言いましたっけ」


 ナターリャちゃんは、とりあえずこの宿屋に二泊することにしたみたいだ。

 理由は、わたしが泊まる残り日数が二泊だから、それに合わせただけみたい。

 そして、たしかに二泊分のチェックインを済ませるときにナターリャちゃんはルカと話していた。

 だから二人とも本当に初めましてって訳でもないね。


「そしてもう一人、今日から仲間になった子がいるんだ!」

「わあ、もふもふ!」


 わたしはテーブルでくつろいでいたわいちゃんを持ち上げて、ルカの前に置く。

 わいちゃんのまんまるもふもふボディを見て、ルカも驚いている様子だ。


「んん? なんやご主人?」

「わいちゃんも紹介が必要かと思ってね。この宿屋で働いてる、ルカだよ」

「ルカです。よろしくお願いします、もふもふさん」

「おお! これはえらいご丁寧におおきに! わいはフラッフィードラゴンのわいちゃんや! 気軽にわいちゃんって呼んでくれや!」

「ふふふ、わいちゃんなんて可愛い名前ですね」


 ルカはわいちゃんがちょこんと差し出した小さな手を握り、握手をする。

 そして、わいちゃんの体をぽふぽふともふった。


「わあ、もふもふで気持ちいいですね~」

「せやろ! わいの自慢のボディや!」


 堂々たるたたずまいでもふられているわいちゃん。

 ルカはひとしきりもふると満足したのか、手を離した。

 

「それにしても、えらい美味そうな匂いでんなぁ~! これが人間の食べ物なんか!」


 わいちゃんはわたしのお皿に乗るオークのトンテキを興味津々な瞳で眺める。

 口の端からは、少しよだれが垂れていた。

 今日の晩ご飯も本当に美味しそうだね。

 そこでわたしは、ふとお皿に乗ったパンに目がとまった。


「そう言えば、今日はご飯じゃないんだね」

「あ、ごめんなさい。お米は昨日の分でなくなっちゃいまして。元々、あまり大量に入荷できていたわけではなかったので……」

「ううん! パンでも全然美味しいから気にしないでよ! あ、それとこの料理なんだけど――」

「申し訳ありませんが、過度なおかわりはダメです!」


 わたしが言おうとしたことを先に釘を刺されてしまった。

 ルカは腰に手を当てて、口を尖らせる。


「昨日はコロネさんがドラゴンステーキを二十人前もおかわりするから大変だったんですからね! 料理を作るわたしたち従業員の負担もそうですけど、何より食材の在庫分がなくなってしまって今日の献立も危うかったんですから! 何とか市場で足りない食材を調達できたから良かったものの、こんなことは今日限りでごめんです!!」

「うぅ、そんなぁ……」


 とっても口惜しいけど…………仕方ない。

 今日はこのトンテキ一食で我慢するか。

 まあ午前から昼にかけて色々な店をはしごして爆食しまくってたからね。

 夜はこれくらいの量でちょうどいいかもしれない。


「……まあでも、特別にあと二人前くらいならおかわりしてもいいですよ。サラちゃんとわいちゃんの分を用意するくらいはできますし!」

「ほんと!? ありがとうルカ! それじゃあオークのトンテキ、二人前お願いするよ!」

「わかりました。それでは用意してくるので少しお待ちください!」


 そう言い残して、ルカは微笑みながら厨房へと戻っていく。


 さすがルカ!

 そういう優しいとこ大好き!!


「な、なんや? わいらも食べさせてもろてええんか?」

「はい! あとでぜひ感想を聞かせてくださいね」

「ぷるーん!!」


 自分達の分も食べられると分かって、サラとわいちゃんは一緒にはしゃいでいる。

 嬉しいのはわかるけど、周りにお客さんもいるからあんまり騒ぎすぎちゃダメだよ。


「冷めちゃってもいやだしわたしたちは先に食べよっか!」

「うん! えへへ、コロネお姉ちゃんと一緒にご飯が食べれて嬉しいな」


 わたしとナターリャちゃんは、共にフォークを握る。


「それじゃあ、いただきます!」


 わたしは切られたトンテキにフォークを刺し、一口で頬張った。


「んんんんん~~~! 美味しい~~!!」


 人生初のオーク肉だったけど、味も食感も普通の豚肉とほとんど変わらない。

 いや、むしろ市販の豚肉よりも脂身が多くてめっちゃジューシーで美味しい!!


「コロネお姉ちゃん! このオーク肉、とっても美味しいよ!!」

「だよね! あぁ~、やっぱり美味しいご飯サイコー!!」

「ううぅ、ええなぁ……。わいも待ちきれんくなってきたで……!」

「ぷるんぷるーん!」


 サラとわいちゃんはトンテキを頬張るわたしとナターリャちゃんをチラチラ見ている。

 もう少しでルカが追加のトンテキを持ってきてくれるから、それまでちょっと待っててね。


 わたしとナターリャちゃんは夢中でトンテキを食べていると、しばらくしてルカぎ追加のトンテキを運んできてくれた。

 ようやくトンテキにありつけたサラとわいちゃんも、一口食べてその美味しさに感動していた。

 この美味しさを共有できてとっても嬉しいよ!


 こうして、今日結成したばかりのパーティ初の夕食はそれぞれ大満足に終わった。

   


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