第13話  ダイヤモンドミスリルを聞き出しちゃう、ぽっちゃり


 アルバートさんからぜひともお礼をさせてくれと詰め寄られている。


 オリビアも後日なにかお礼をするとか言ってたし、さすがに親子から二重で貰うのは気が引ける。

 だけど、このまま断り続けても素直に聞き入れてくれそうにない。


 あ、そうだ。

 だったら代わりに、さっきから疑問に思っていたことを聞いてみることにしよう。


「あの、それじゃあ気になることがあるので質問してもいいですか?」

「ん? ああ、何でも聞いてくれ」

「さっきから話題に上がってる、ダイヤモンドミスリルって何なんですか?」

「なんだ知らないのか」


 アルバートさんは意外そうな顔をしてから、説明をしてくれる。


「ダイヤモンドミスリルというのは、超希少な魔法金属のことだ。ただでさえ希少なミスリルだが、それがさらに高濃度の魔素を長期間にわたって吸収することで初めて生成される。そのため、市場ではミスリルの十倍ほどの額で取引されている」

「ダイヤモンドミスリル製の武器や防具は超一級品なんです。ダイヤモンドミスリルは素材自体に魔素が含まれているため、武器ならば魔力効率を最大化した状態で魔法を撃つことができます。防具なら物理・魔法を問わずほぼ全ての攻撃を弾くことができるほど硬いです。しかも見た目もダイヤモンドのように美しいので、宝飾品としての需要も高いのです」


 なるほど。

 アルバートさんとオリビアが丁寧に教えてくれたおかげで、だいぶ分かったぞ。

 ダイヤモンドミスリルってそんなにスゴい高級品だったんだね。

 まあ宝石の代表格であるダイヤモンドと希少鉱物として有名なミスリルが融合してるんだから、値が張るのは当然か。

 ダイヤモンドミスリルの情報は分かったけど、次の疑問がわいてくる。


「それじゃあ、どうしてそんなにダイヤモンドミスリルを欲しがってるの?」

「それはだな……」


 さっきまで饒舌じょうぜつに語ってくれたアルバートさんが、少し口ごもる。

 なにか言いにくいことなのかな。

 そう言えばオリビアもどうしてダイヤモンドミスリルを探しにきたのか聞いたら困ったような顔をしていた。

 初対面のわたしにそこまで明け透けに話すのを警戒しているのかもしれない。

 まあ話の流れで気になっただけで無理に聞き出そうってわけじゃないから、言いたくないなら深堀りはしないけど。


「あの、言いにくいことだったら答えなくても――」


 良いですよ、と言おうとしたところで、部屋の扉がノックされる。

 すると、外から執事っぽいお爺さんが入ってきた。


「アルバート様。お取り込みの所、失礼いたします」

「どうしたグラハム」

「冒険者ギルド〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉のギルドマスターが面会を求めております。今後の街の防衛に関して交渉がしたい、と」


『〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉』というワードを聞いた瞬間、アルバートさんの目付きが変わった。

 なんだかとても怖い顔をしている。

 だけどそれも一瞬で、すぐに表情は柔らかくなった。


「すまないコロネ。俺は少し急用ができてしまったようで、席を外さねばならない。本当なら我が家でもてなしをしたかったのだが……」

「いえいえ、気にしないでください。それじゃあわたしはこれで」

「もしこの街で何かあれば気にせず我が屋敷に訪れてほしい。できる限りの対応はしよう。デリックとレイラも、コロネが困っていたら助けてやってくれ」

「分かりました領主様!」

「勿論です領主様」


 デリックとレイラの返答に、アルバートさんは満足そうに頷く。

 すると、隣にいたオリビアが手を上げてアピールし始めた。


「コロネさん! どこか行きたい場所があるなら私がご案内を――」

「待てオリビア」

「へっ?」


 わたしのそばに寄ろうとしたオリビアだったけど、いつの間にか後ろに回り込んでいたアルバートさんに首根っこを掴まれる。


「お前はまだ今回の件の仕置きを受けていないからな。俺の方で魔法の座学を追加しておいた。お前の成績が伸び悩んでいる分野だ。それを全てやり終えるまでは屋敷から出られないと思え」

「お、お父様? 私、もう十分に反省しております。ですのでそのようなお仕置きは――」

「その場しのぎの反省では意味がない。お前はどれだけ危険な行いをしたのかまるで理解していないからな。しばらくは勉学に励み、自らの軽率な行いをしっかりと反省しなさい」

「しばらく!? 今日だけではないのですか!? お父様!」


 アルバートさんに持ち上げられ、ちゅうに浮いた状態でジタバタと暴れるオリビア。

 まるでイタズラがバレた子猫みたいだ。

 そんな実の娘の姿を、アルバートさんはため息混じりに眺める。


「ああ、それとデリック、レイラ。今回の件を主導したのはオリビアとは言え、お前たち二人も共犯だ。だから何かしら罰が必要なんだが……そうだな、お前たちのパーティーに対して、貸し三つでいいぞ」

「か、貸し三つ、ですか」

「なんだ。不満か?」

「い、いえ! 分かりました!」


 アルバートさんが凄んだ瞬間、デリックは美しいお辞儀で受け入れる。

 素晴らしい手のひら返しだ。

 まあ、貴族に凄まれたら怖いよね。

 まして相手は領主のアルバートさんだ。

 この街のトップに貸しを三つも作ったらどんなお願いをされるか分からないけど、法的な罰を適用しないあたりかなり大目に見てくれているのかもしれない。

 まだ出会ってそれほど経っていないけど、アルバートさんがいい人だってのは感じたよ。


「それではコロネ、俺はもう行かせてもらう。しばらくベルオウンの街にいるなら、また会うこともあるだろう。あと、このバカ娘に無茶なお願いをされたら俺に言ってくれ。仕置きとしてたんまり勉学と稽古を叩きこんでやるからな」

「お、お父様! 私にお仕置きなんて必要ありませんー!」

「あはは、まあ、ほどほどにしてあげてね……」


 相変わらずジタバタと暴れるオリビアとそれを絶対に離さないアルバートさんの構図を見て、わたしは苦笑するしかない。


 まあ、親子仲が良くて何より、かな……?





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