第12話  領主の屋敷に連行されちゃう、ぽっちゃり


 オリビアの馬車からオリビアのお父さんの馬車に移動させられた、わたしたち四人。

 その車内は大変いたたまれない。

 なぜならオリビアのお父さんが終始しゅうし無言のぶちギレオーラを放出していたからだ。


 ほどなくして領主の屋敷に到着し、わたしたちは現在、執務室の机の前に並んで立たされている。

 執務机の椅子に腰を下ろすオリビアのお父さんが、鋭い目付きでオリビアを見た。


「さてオリビア、何か弁解はあるか?」

「……いえ、何の申し開きもございません。わたしがデリックとレイラにお願いして、《魔の大森林》まで連れて行ってもらいました。だから、どうかこの二人は許してあげてください」

「……まあ、そんなことだろうとは思っていた。目的はやはりダイヤモンドミスリルなんだな」

「はい……」


 オリビアのお父さんは、深いため息をついた。


「《魔の大森林》がどれほど危険な場所かお前もよく知っているだろう。とてもじゃないが、デリックとレイラだけではダイヤモンドミスリルが採掘できる領域までたどり着くことなど不可能だ。頼むから、こんな無茶なことはやめてくれ。お前の身に何かあれば、俺は街の管理どころではなくなってしまう」

「お父様……。はい、もうこのようなことはいたしません……」


 オリビアのお父さんは諭すような口調でオリビアの行動を叱った。

 オリビアも素直に聞き入れ、今回の行いを反省している。

 娘の身を案じる親心が伝わったのかもしれないね。

 いい話にまとまって良かったよ。


 親子愛にしみじみとしていると、オリビアのお父さんがわたしに視線を向けた。


「それで、その者は誰だ? デリックの新しいパーティーメンバーか?」


 え、わたし?

 これって自己紹介とかした方がいいのかな。

 どうしたものかと考えていると、隣のオリビアが説明してくれた。


「この方はコロネさんといいます。他国からいらっしゃったそうで、《魔の大森林》では私たちの命を救っていただきました」

「コ、コロネです。よろしくお願いします」


 わたしが申し訳程度の自己紹介をした瞬間、オリビアのお父さんは机をバンッ! と叩いて立ち上がる。


「そうか! これは挨拶が遅れて申し訳ない。俺はこの街、ベルオウンの領主をしているアルバートだ。此度こたびはオリビアを救っていただき、感謝する!」

「い、いえ、わたしは軽く手助けした程度なので」

「むっ、そんなことはありません。コロネさんがいなければ、本当にわたしたちは死んでいたかもしれないです」

「そうだな。良くてもお嬢一人を逃がせていたくらいだろう」

「ああ。コロネ殿がいなければ確実に私とデリックは死んでいた。心から感謝している」


 オリビアを皮切りに、デリックとレイラもわたしを称賛し始める。


 そんなにわたしを持ち上げないで欲しいんだけど。

 このアルバートって人、領主なんだよね?

 一応この街にしばらく滞在しようかと思っているから、領主様の前で変な悪目立ちはしたくない。


「ほう……オリビアらにここまで言わせるということは、よほどの窮地きゅうちを救ってくれたのだな。この街を治める領主として、深く礼を言おう」

「えっと、アルバート、様? 本当にわたしは大したことはしてないんで……」

「フッ、そう固くならなくてもいい。娘の命の恩人だ。無理に敬語も必要ないし、アルバートと呼んでくれ」


 オリビアと同じこと言われたんだけど。

 これはやっぱり親子ってことなのかな?

 でも、二人とも自分たちが貴族であるということを理解した方がいいと思うんだけどね。

 普通の人なら怖くてフランクに接するなんてできないだろう。

 まあ、わたしは何かトラブルがあったらどこかへ逃亡する気マンマンだから、そういう意味では精神的に少し余裕がある。


「それじゃあアルバートさんって呼ばせてもらいます」

「うむ。それで、娘を救ってくれた礼の件なんだが……」

「いやいや、お礼はいいです!」

「いや、しかしだな」


 明確な断りのメッセージを伝えたけど、アルバートさんも頑固なのか引き下がらない。

 是が非でもわたしにお礼の品を受け取らせたいようだ。


 こうしてしばらくの間、わたしはアルバートさんと押し問答を繰り広げることとなった。


 いや、このやり取りはさっきオリビアとやったばかりだからもういいよ!




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