第11話 ハプニングに見舞われちゃう、ぽっちゃり
ガタガタと揺られていた馬車が、ゆっくりと停止する。
どうやら街へと続く門に入ったようだ。
オリビアも後ろの窓から外を見ている。
「街に到着したようですね」
「そう言えば、オリビアたちはこの後どうするの?」
「私たちはこのまま屋敷に戻ります。ただ……コロネさんは屋敷までの道中、どこかで降りていただくことになると思います」
「さすがに屋敷の中まで入るわけにもいかないしね。全然大丈夫だよ」
「申し訳ありません。今回のお礼は後日、必ずいたしますので、しばしお待ちいただければと」
「いやいや、お礼なんていいよ! わたしはたまたま通りかかって助けただけだから、気にしないで」
「ふふ、随分と謙虚なのですね。普通は貴族の娘を救ったとなれば、それなりの対価を要求したりするものなのですが」
「まあ、お礼が欲しくて助けたわけじゃないからね」
わたしはオリビアが貴族だから助けたわけじゃない。
デリックとレイラの二人にしたってそうだ。
仮に三人とも辺境の農民だったとしても、わたしは助けていた。
困っている人がいたら手を差しのべる。
人として当然のことをしたまでだ。
「しかし、ウォルトカノン家の名にかけて命の恩人を手ぶらで帰す訳には参りません。後日となってしまうのが大変心苦しいのですが、ささやかなお礼はさせていただきますので」
本当にお礼は必要ないんだけど、どうやらオリビアの意思は固いみたいだ。
まあ、お礼をしたいって言ってる人の思いを無下にするのも気が引けるし、ここは素直に貰っておこうかな。
「そこまで言うならいただくよ。オリビアが何をくれるのか楽しみにしてるね」
「はい! 決してガッカリすることのないお礼をさせていただきます!」
「ほ、ほどほどにね」
貴族って一般庶民と比べて金銭感覚がおかしい可能性があるから、少し不安は残る。
もしかしたらオリビアも、『コロネさん! こちらお礼の
うっ、そう考えるとちょっと怖くなってきたんだけど。
オリビアなら大丈夫だよね……?
オリビアのお礼の品に想像を巡らせていると、御者台の窓からデリックが顔を出した。
「……お嬢、すいません。ちょっと出てきて貰ってもいいですかね?」
「どうしたのですか」
「いや、それが……ちょっと俺じゃ対応できないトラブルが発生しまして。お嬢と話をしたいと仰ってる方がいらっしゃるんです」
「……? おかしいですね。デリックには我がウォルトカノン家が発行した通行証を持たせているので、検問はパスできるはずなのですが……」
オリビアは不思議そうな顔をした後、足に乗せていたサラを横に置いて立ち上がった。
サラはぽよんと跳ねてわたしの膝の上に移動してくる。
「申し訳ありません、コロネさん。少し話をしてきますので、ここでお待ちください」
「分かったよ」
「お嬢様、私もお供いたします」
オリビアとレイラが馬車から降りていく。
急に一人ぼっちになってしまった。
いや、サラがいるから一人きりってわけじゃないんだけど、いきなり暇になってしまったのは否めない。
なんで呼び出しを受けたか気になるから、わたしは馬車の窓からこっそりとオリビアたちの様子を観察することにした。
窓の向こうで、街に降りたオリビアとレイラが見える。
「全く、どうしたというのですか? デリックには我が家の通行証があるはずでは――」
「一体、何をしているんだオリビア?」
少し不満げなオリビアだけど、それをとある人物が遮る。
貴族であるオリビアの話を無視して?
しかも呼び捨てだし、かなり上からの口調だ。
これは普通の門兵とかじゃないよね。
わたしはオリビアの正面に立つ人物に目を向けてみる。
そこには一人のイケオジが立っていた。
うわぁ、身なりからして絶対貴族だ。
もう貴族臭プンプンのいかにも高級そうな服を着てるもん。
よく見たら周囲にも甲冑を装備した騎士らしき人が何人か護衛している。
まあオリビアにあんな口を聞ける時点で一般人でないことは確かだけどね。
オリビアもわたしと同じことを思ったのか、目の前のイケオジを見る。
その瞬間、変な声をあげてビックリ仰天していた。
「お、お父様がなぜここに!?」
お父様!?
あのイケオジはオリビアの父親なの!?
ウチのお父さんとは大違いだね。
わたしのぽっちゃりはお父さんから遺伝したんじゃないかと疑ってしまうくらいのぽっちゃり父だったから。
まあ、わたしはそんなお父さんが嫌いじゃなかったけどね。
てか、今はそんなことを考えてる場合じゃないっぽい。
なぜならオリビアのお父さんが見るからにぶちギレているからだ。
「説明しろオリビア。お前はここで、冒険者であるデリックたちと一緒に何をしていたんだ」
「た、大したことではありません。課外学習として、街の周辺に生息する魔物の実態調査を……」
「オリビア。お前まさかダイヤモンドミスリルを採掘しに行っていたんじゃないだろうな」
お父さんにそう言われた瞬間、オリビアの肩がビクッと震える。
その反応が、決定打となってしまった。
「うぐっ、そ、それは……」
「やはりかオリビア! あれほど街の財政に首を突っ込むなと言っているだろう! 自分がどれだけ危険なことをしているのか分かっているのか!!」
「も、申し訳ありません……」
なんかオリビアが怒られてる。
そう言えば、オリビアと出会った時にダイヤモンドミスリルがどうのこうのって言ってたね。
もしかしてオリビアはそのダイヤモンドミスリルの調査を親にナイショで行っていたのかな。
護衛もデリックとレイラの二人しかいなかったし、その可能性は高そうだね。
実際、わたしが助けに入らなければ危険な状況になっていただろうし、叱られても仕方ないかも。
しょんぼりしてるオリビアを見るのはちょっと可哀想な気もするけどね。
「はぁ……まあいい。オリビアには屋敷で話の続きを聞かせて貰おう。デリック、レイラ、お前たちも来い」
「は、はい」
「分かりました……」
デリックとレイラも呼び出しを食らったようだ。
まあオリビアと共犯関係だったから当然なんだけど、貴族からの呼び出しって怖いよね。
大丈夫かなあの二人。
……ん?
てか、この場合わたしってどうなるんだろう。
わたしはオリビアとたまたま出会っただけだから無罪だよね?
まあオリビアから特に何かするように言われてるわけじゃないし、このまま馬車の中に隠れてやり過ごそうか。
うん、そうしよう。
「それで――」
オリビアの父親がキッとわたしを見た。
やば!
目があった!?
わたしはすぐに窓から離れたけど、オリビア父は見逃さなかったらしい。
すぐに馬車の扉がガチャン! と開けられ、イケオジが中に入ってくる。
「詳しい事情を聞かねばならんからな。お前にも我が家まで同行してもらおうか?」
え、ええぇぇ~~~~!!
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