第10話  ひと安心しちゃう、ぽっちゃり


「そちらのスライム、私もなでなでしてよろしいでしょうか!?」


 興奮した様子でわたしの膝の上に乗るサラを見つめるオリビア。

 まあ、なでなでするくらいなら特に断る理由もないかな。


「スライムってサラのことだよね? まあ、ちょっとだけならいいよ」

「サラちゃんというのですね! ふわぁ~、ありがとうございます!」


 わたしは膝の上に乗っていたサラを持ち上げて、オリビアに渡してあげる。

 サラを受け取ったオリビアは、笑顔でなでなでし始めた。


「サラちゃん。気持ちいいですか?」

「ぷるん!」

「ふふ、それは良かったです」


 サラとオリビアが会話をしている。

 やっぱり、言葉は話せなくてもサラの言いたいことは伝わるものなんだね。

 サラって感情表現が豊かだから、それが大きいかもしれない。


「サラちゃんは普通のスライムなんですか? それとも、コロネさんの従魔ですから珍しい種の個体なのでしょうか?」

「種族名はたしか解体スライムって言ってたかな」

「解体スライム、ですか。聞いたことがありませんね。まあ私は魔物にそこまで詳しくありませんし、それにスライムは新種が毎年のように発見されていますからね」


 それだけ言うと、オリビアはほわほわした表情でサラのなでなでを続けている。

 二人だけの世界に入らないでほしいんだけど。

 尋問もとい質問はもう終わったのかな?


 なでられるサラを眺めながらそんなことを考えていると、わたしはあることを思い出した。

 さっき、サラが呑み込んだ魔物の分配だ。

 その件を確認するべく、わたしはレイラに顔を向ける。


「そう言えば、オークとウルフの死体はどうする? なんか流れでわたしが全部回収しちゃったけど、レイラたちの取り分も渡すよ」

「いや、結構だ。パーティーを組んでいるならともかく、基本的に魔物から得られる戦利品は倒した者が総取りするというのが冒険者のルールだ。だから私たちは何も要求する気はない。というか、コロネ殿も冒険者ならこのルールはご存知だろう」


 なるほど、冒険者にはそんなルールがあるんだね。

 魔物は全て倒した人間の物で、恨みっこなしってことか。

 でも、やっぱりレイラはわたしが冒険者だと思ってるみたいだね。

 まあ、あれだけ大量のオークやウルフとドンパチやってる様を見たら、そう思うのは当然だろう。

 だけど、勿論わたしは冒険者じゃない。

 後々あとあと問いただされるのも面倒だし、ここは正直に打ち明けた方が良いかな。


「あー、実はわたし冒険者じゃないんだよね。だからあんまりそういったルールとかに詳しくなくて……」

「なに!? あれだけの強さがありながら冒険者ではないだと!?」

「う、うん」

「冒険者じゃないとなれば……もしかして騎士だろうか?」

「いや、騎士でもないよ。ごく普通の一般人だよ」

「コロネ殿のような一般人などいない」


 わたしの答えは、レイラにきっぱりと一蹴いっしゅうされる。

 本当にただの一般人なんだけど。

 少なくとも今のところは。


「コロネさんは、本当に冒険者や騎士ではないのですか?」

「うん、そうだよ」

「そうですか。ならコロネさんの仰ることを信じましょう」

「し、しかしお嬢様」

「冒険者かどうかなど、この際さして気にすることでもありません。それに、わざわざそのような嘘をつく理由もないでしょうし」


 オリビアはサラをなでながらレイラをさとす。

 レイラはまだ腑に落ちていないようだけど、渋々納得してくれたみたいだ。

 いや、なんかこれ逆にわたしが怪しいヤツみたいになってる気もする。


「あ、あの、やっぱりわたしって何か疑われてるのかな……?」

「いえ、そのようなことはございません。ただ、他国の者が軽々しく私のような貴族と接触を図ればスパイ容疑をかけられる可能性があります。そういった面倒な事態を防ぐために、形式上このような場を設けさせていただいたのです。ご不快な思いをさせてしまいましたら、申し訳ございません」

「そうだったんだね……。それで、わたしのスパイ容疑は晴れたのかな?」

「はい。少なくとも私にはコロネさんによこしまな思惑があるとは感じませんでした」


 さっきまでとは違い、本当の笑顔で応えてくれる。

 どうやらわたしの嫌疑は晴れたみたいだ。

 よかったよかった!


 わたしが一安心していると、御者をやっているデリックから声がかかる。


「お嬢ー! そろそろ街が見えてきましたー!」


 お、もうすぐ街につくみたいだ。

 オリビアたちが住む街って一体どんな感じなんだろう。

 気になったので、背後にあった馬車の窓から外を見てみる。


「おおお、あれがオリビアたちが住んでる街――ベルオウンか!」


 一面の草原の向こう側に広がる、石造りの城壁。

 その城門へと続く道には、わたしたち以外にも乗り合い馬車があったり、冒険者らしき人たちが何人か歩いている。


 まさにイメージ通りのファンタジーの街だ!

 くっくっく、街についたらすぐに魔物の素材を売ってお金を手にし、そのお金で街のグルメを堪能しまくってやるぜ!


 待ってろ、激ウマ異世界メシー!!



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