第9話 女性陣に尋問されちゃう、ぽっちゃり
「コロネさん。これは一体どういうことか、詳しくお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
満面の笑みのオリビアに詰められ、わたしは苦笑いをしながら距離を取る。
「お、お話ってなに? わたしは何も話すことはないよ?」
「信じられないほどの魔法スキルと魔力量、そして謎の従魔のスライム。お聞きしたいことは山ほどございます」
「コロネはベルオウンの街の冒険者じゃないよな。他の街だとしてもこれほど突出した実力者がいれば少しくらい噂が立つもんだが、コロネらしき人物の話は聞いたことがない。一体どこの国から来たんだ?」
「コロネ殿の来歴も気になるところだ。それほどの魔法の才があれば、さぞ高難易度のクエストもこなしているのだろう。後学のためにもコロネ殿の武勇、ぜひとも拝聴したい」
オリビアに続くように、デリックとレイラもわたしに詰め寄ってくる。
魔物に襲われる窮地から軽い気持ちで救っただけなのに、まさかこんな糾弾されることになるなんて……!
やっぱりわたしのスキルはチートすぎたのか!?
もう少し威力をセーブすべきだったのか!?
だけど、今さら何を思っても後の祭りだよね……。
右を見れば笑顔のオリビア、左を見れば真剣なデリックとレイラ。
三人に取り囲まれて、追及される。
うぐぐ、逃げ場がない……!
「い、いやいやいや! わたしなんて本当に全然大したことないですから! ご飯と寝るのが大好きなただのぽっちゃりですから!」
「森の入り口に私たちの馬車を停めてあります。まずはそちらへご同行いただいてもよろしいでしょうか」
「えっと、ちなみにそれって断っても――」
「デリック、レイラ。コロネさんをお連れしてください」
「了解です、お嬢」
「コロネ殿、どうぞこちらへ」
いつの間にか背後に立っていたデリックとレイラに、ガシッと肩を掴まれる。
二人からは、絶対に逃がさないという意志がモロに伝わってくるよ。
何も悪いことしていないのに連行されるなんて、やっぱり貴族って怖いんだね……。
「うぅ、わかったよぅ……行けばいいんでしょ」
わたしはせめてもの要求として遠距離で倒したウルフの死体をサラに回収して貰ってから、オリビアたちに囲まれるようにして馬車へと向かうことになった。
〇 〇 〇
馬車に詰め込まれ、ガタガタと揺られるわたし。
そんなわたしの正面に、オリビアとレイラが並んで座っている。
デリックは馬車の御者をしているためこの場にはいない。
「さて、それではコロネさんに
「いま尋問って言おうとした?」
「気のせいです。ね、レイラ」
「はい、お嬢様」
ニコニコ笑顔のオリビアと、真面目な表情のレイラ。
わたしはこれから一体どうなってしまうんだろうか。
相手が貴族だから余計に恐怖を感じるんだけど。
よし、最悪の場合はこの馬車から飛び降りて逃走しよう。
バリア魔法があるから、多分ダメージも何とかなるだろう。
処刑されたり、牢屋にぶちこまれたりするよりはマシだ。
「ぷるん?」
「あはは、大丈夫だよサラ」
わたしの膝の上に乗っているサラが、大丈夫? と心配してくれた。
お礼になでなでしてあげよう。
すると、オリビアが顔色を変えて真面目なオーラを出す。
「突然このような事態になってしまい、申し訳ございません。確かにお聞きしたいことは山ほどあるのですが、
「は、はい」
「それではまず一点目。コロネさんは、どちらの国からいらしたのでしょうか?」
よく考えたら、わたしって異世界転移してきた人間って話してもいいのかな?
でも異世界人であると分かった瞬間、捕えられたり指名手配を食らったりするかもしれない。
異世界人だからといって、必ずしも歓迎されるわけじゃないからね。
そういった作品もいくつか知っている。
とりあえず今のところは、わたしの素性はできる限り隠していくモードで進めていこう。
「まあ、そうだね。結構遠くの国から来たよ」
「……やはりノルヴァーレ王国の冒険者ではないのですね。まあ、国内にコロネさんほどの実力がある冒険者はほぼおりませんし、それほど凄腕の冒険者なら私が知らないはずはありませんから、当然と言えば当然ですが」
「えっと、ノルヴァーレ王国っていうのはオリビアが住んでいる国の名前なのかな?」
「その通りです。ノルヴァーレ王国の名もご存知でないということは、我が国の周辺国および歴史的に親交が深い他国からいらっしゃった訳でもなさそうですね。ふむふむ、なるほど」
国名を聞き返しただけなのに、めちゃくちゃ分析されてる!?
こ、これは不用意な発言はできないね……!
さすがにこの段階でわたしが異世界人だと断定はできないと思うけど、ちょっと恐怖を覚えたよ。
オリビアって頭いいんだね……。
「それと、コロネさんのお召し物は見たことがないのですが、祖国の民族衣装だったりするのでしょうか?」
そう言われて、わたしは自分の服装を見下ろしてみる。
うん、上下ともキレイな赤ジャージを着ているだけだった。
これはわたしが部屋着として着ているジャージだ。
結構使い古しているから、生地が伸びて非常に動きやすくなっているので愛用している。
だけど、異世界だからジャージっていう服もないんだね。
だけど、間違っても民族衣装なんていう高尚なモンじゃないから、そこは訂正しておかないと。
「いや、この服は全然そんな大したものじゃないよ! これは……そう、わたしの国の運動着みたいなものでね。動きやすいからよく着てるんだよ」
「そうなのですね。変わったデザインですが、確かに動きやすそうです。私も部屋着として試してみても良いかもしれません」
「いや、それはダメ。これは貴族が着るようなモンじゃないから」
「そ、そうですか」
部屋着をジャージで過ごす公爵令嬢なんて見たくないからね。
天蓋付きのベッドでご令嬢がジャージ姿で出てきたら、イメージぶち壊しもいいとこだ。
「それでは最後の質問……というか、お願いなのですが……」
「ん? なに?」
わたしが軽く返事をすると、オリビアは目をキラキラさせて前のめりになる。
「そちらのスライム、私もなでなでしてもよろしいでしょうか!?」
「ぷるん?」
サラが不思議そうにぷるぷると震えた。
オリビア……ずっとサラを撫でたいの我慢していたのかな?
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