第14話 焼き鳥で召されちゃう、ぽっちゃり
オリビアとアルバートさんの一悶着の後、わたしはウォルトカノン家の執事をしているグラハムさんに見送られ、街を散策していた。
「さーて、まずはどこに行こっかなー」
「ぷるーん」
わたしの肩に乗るサラが、そうだねー、という感じで鳴き声をあげる。
キョロキョロと辺りを見回してみても、やっぱり大体わたしがイメージしていた異世界の街並みが広がっている。
レンガ造りの中世ヨーロッパ風だ。
こんな異国情緒あふれる街ならハイテンションで色々と練り歩きたいところなんだけど……わたしの後ろにはボディーガードのように二人の冒険者がくっついてきていた。
わたしは一人で大丈夫だよって別行動を提案したのに、二人は頑として譲らなかったのだ。
「……あの、デリックとレイラも無理にわたしについてこなくていいよ? わたしは一人でも大丈夫だし」
「俺もレイラもアルバート様にコロネの面倒を見るように頼まれてるからな。何もせずサヨナラはできねぇぜ」
「うむ。命の恩人に不義理はできない」
そんなに気にしなくてもいいんだけどな。
もしかして二人とも暇なの?
「それよりもコロネ殿。行くところがないなら、まずは冒険者ギルドに行ってみるのはどうだろうか?」
「え、冒険者ギルド?」
「そりゃあいい考えだ! もし今後も魔物を狩るつもりなら冒険者登録をしてギルドカードを持ってた方がお得だぜ。実績として証明されるからな。それに、さっき《魔の大森林》で討伐したオークとウルフの素材も――」
「あーー! 何あれ!」
めちゃくちゃ香ばしくていい匂い!
デリックが何か話してたけど、わたしは無視してその匂いの元に全力ダッシュする。
そして、ものの数秒で匂いの源へたどり着いた。
どうやら、大通りの端に並んでいる出店のようだ。
キキキー! と急ブレーキをかけるように、目当ての店の前に停止する。
わたしは、目の前の光景に胸が高鳴った。
「うわぁ~~! 美味しそうな焼き鳥だぁ~~~!!」
「ぷるーん!」
目の前に広がるのは、大きな網の上で焼かれるたくさんの焼き鳥たち!
いい感じに焦げ目もついて、こんがりジューシーに仕上がっている!
ヨダレを垂らしながら食い入るように焼き鳥を凝視していると、店主のおじさんが声をかけてきた。
「お、お嬢ちゃん、スゴい気迫だな。どうだい、一本買ってくかい?」
「買う買う買う! 一本と言わず十本……いや、五十本!」
「五十本!?」
おじさんはビックリしたような声をあげてるけど、どうしてそんなに驚いてるんだろうね。
焼き鳥は美味しいけど、一つの串に刺さってるお肉は微々たるもの。
言ってしまえば、焼き鳥はおやつみたいなモンだ。
五十本でもまだセーブしてる方だよ?
「焼き鳥五十本だと金貨二枚になるが、大丈夫かい?」
「金貨二枚ね! オッケーオッケー……」
すぐに購入して、この場で焼き鳥を楽しませてもらおう!
そう心踊らせていた矢先、わたしは重大な問題に気づいた。
「――――あああああああ!! わたし、お金持ってない!!」
「ぷるん!?」
そうだった!
わたしは無一文でこの異世界に飛ばされちゃったんだった!
ちょっと神さま!
チートスキルは豪快にくれたっていうのに、どうしてわたしに焼き鳥五十本分のお金は持たせてくれなかったのさ!
目の前が真っ暗になる。
足に力が入らなくなり、わたしはサラと共にスローモーションでその場に崩れ落ちた。
「そ、そんな……ここまで来て焼き鳥はおあずけなんて……」
「お嬢ちゃん!? 急に倒れてどうしたんだ!?」
ああ、頭上には焼き鳥から生まれた食欲そそる煙と香りが漂っている。
だけどその焼き鳥を食べることはできない。
お空に昇る白い煙を見ていると、手足の生えた焼き鳥ちゃんたちが浮かび上がってきた。
こっちにおいでよー、とたくさんの焼き鳥ちゃんがわたしを呼んでいる。
ああ、焼き鳥
「お、おーい、コロネ! いきなり走り出すんじゃねぇ!」
「コ、コロネ殿! 突然どうしたというのだ?」
出店の前で安らかに眠っているわたしと、オロオロしてる店主のおじさん。
その両者を見て、デリックが真顔で一言。
「……いや、こりゃ一体どういう状況だよ」
おじさんは、わたしの元に駆けつけた二人を見て助けを求める。
「お、おいアンタら、このお嬢ちゃんの知り合いか!?」
「ああ、まあ……そうだ。それで何だってこんな状況に?」
「それが、どうやらこのお嬢ちゃんは焼き鳥を買うお金を持ってなかったみたいでよ! そのことに気づいた瞬間、ゆっくりと息を引き取っちまったんだ!!」
「いや、まだ死んでねぇから」
デリックとおじさんが何やら話をしている。
すると、レイラがしゃがみこんでわたしに語りかけてくれた。
「もしかしてだが、コロネ殿は焼き鳥が好きなのだろうか?」
「うん……焼き鳥すき……。いっぱいたべたい……」
「そうなのか。では、少し待っていてくれ」
「え……?」
それだけ言うとレイラは立ち上がり、デリックと店主のおじさんの会話に割り込んでいった。
「すまない店主殿。今できている焼き鳥、全ていただきたいのだが」
「な、なに? 焼き鳥を?」
「そうだ。お金はあるので心配しないでほしい」
「あ、ああ分かった。いま焼いてるのはちょうど二十本だ。これとは別に、持ち帰り用のパックが全部で四十本ほどあるが、どうする?」
「ではそちらも全ていただこう」
「ま、まいどあり。合計で金貨二枚と銀貨四枚だ」
レイラがお会計をしようとすると、デリックが待ったをかける。
「お、おいレイラ! なんでいきなりそんな大量の焼き鳥を買うんだよ!」
「どうやらコロネ殿はこの焼き鳥が食べられなくて倒れていたようだ。なので私が代わりに購入してコロネ殿に差し上げようと思ってな」
「それにしたって、六十本も買う必要あるのか? それなりの額になるぞ」
「構わない。コロネ殿には命を救われた。これくらいのお礼ではまだ足りないくらいだ」
レイラの言葉にデリックは、うぐっ、と声をあげる。
それから少し悩んだ後、決意を固めた。
「分かったよ。だったらレイラ、俺も出すぜ。コロネに助けられたのは俺も同じだからな」
「む、それでは割り勘するということか?」
「え~っと、それはだなぁ……」
なにやら店前でレイラとデリックが話している。
しばらく待っていると、大きな紙袋を抱えたレイラがわたしの元に戻ってきた。
「お待たせしてすまない。コロネ殿が好きだと言っていた焼き鳥を買ってきたのだが、食べて貰えるだろうか」
レイラは紙袋から熱々の焼き鳥を出し、わたしに見せる。
その匂いと光景にわたしはガバッ! と起き上がり、涙目でレイラを見つめる。
「レ、レイラ~~! ありがどうぅぅ~~~!!」
「ぷるーん!」
「コロネ殿から受けた恩に比べればこれくらいちっぽけなものだ」
みっともなく涙とヨダレを垂らしているわたしを、レイラは穏やかな笑みで迎えてくれる。
そして、手にしていた一本の出来立て焼き鳥をわたしに差し出した。
「寝起きでまだ疲れているかもしれないから私が食べさせよう。ほら、口を開けてくれ。あ~ん」
「いただきます! あーーーんっ!!」
レイラにあーんされ、わたしはバクリと焼き鳥を口に入れる。
うまぁあああああああああ!!
舌に広がる甘だれ、じゅわりと溢れる肉汁、そして鶏肉のコリコリとした食感!
それらが芳ばしい香りと共にハーモニーを奏でている!
ああ、まさに口の中が
これぞ焼き鳥
「ふふっ、少しだがコロネ殿がどのような人物なのか分かったような気がするな。ほら、コロネ殿。焼き鳥はまだまだある。存分に味わってくれ」
「あじわう!!」
紙袋の中から追加の焼き鳥を出してくれるレイラ。
わたしは天にも昇る美味しさの焼き鳥を屋台の前で食べ続けた。
「……あの、できればどこか
焼き鳥屋のおじさんはなんとも言えない表情でわたしたちを眺めていた。
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