第13話 2-Cの秘密

 放課後の図書室で謎の小冊子を手渡されてから、今日でちょうど一週間。

 何と、休日である。

「区立加賀見台中学校開校87周年」の記念日だった。

 図書室でツキモト先輩と会った辺りから、どうもすべて仕組まれていたような気がしてきた。

 でも、約束は約束だ。

 夕方、ぼくは制服に着替えて学校へ向かった。

 校門をくぐると、玄関の前に誰か立っていた。

 学校用務員の熊谷くまがいさんだ。

「西堀さん。お休みの日に、ご苦労様です」と、熊谷さんが言った。

 今まで話したことはないが、よく脚立を抱えて校内の管球の取り換えなどをしているおじさんだ。いつもは作業服を着ているのだが、今日はスーツ姿である。

「中で、お待ちになっています。どうぞお入りください」と熊谷さん。

「どうも」

 何でこの人が……と不思議に思いながらも、ぼくは頭を下げて校内へ入った。

 廊下の向こうに、ツキモト先輩がいた。

「来たわね」

「どうも」

「行きましょう。こっちよ」

 月本礼香つきもとれいかは白いシャツにネイビーのパンツスーツを着ていた。身長はぼくより5センチくらい高いので170近い。この姿だと、とても中学三年生には見えなかった。

 ぼくはどこかの会社の広報の人に案内されるように校内を歩き始めた。熊谷さんも後ろからついてくる。

 

「これ、お返しします」ぼくはBDDを先輩に返した。

「読んだのね。感想は?」と先輩。「おもしろかった?」

「中学二年生が書いたにしては、よくできていると思います」

「それだけ?」

「この学校でここに書かれているようなことはなかった、と思いたいですね」

 先輩はぼくの顔を見て、くすっと、声を出さずに笑った。


 ぼくたちは階段を上がっていった。

 4階の図書室へ向かうのかと思っていたが、先輩は2階で降りた。

 ぼくたちは、旧2-Cの前で歩みを止めた。

 熊谷さんが、鍵束から一本の鍵を選び出して、2-Cの扉を開けた。

 ついに封印が解かれる瞬間が来たようだった。

 しかし────。

 果して、扉の向こうに、また壁があった。

 ガラスに黒い模造紙を貼ってあると思っていたのだが、それはもう一つの「黒い壁」だったのだ。

「驚いた?」とツキモト先輩。

 熊谷さんが一歩下がると、今度は先輩が壁に向かって、手をかざした。

 何やら低い電子音が響いて、黒い壁が横にスライドしている。


 黒い壁の中は白い部屋だった。

 教室の中にもう一つ、別の部屋が作られていた。

 何もない真っ白い部屋に、一つだけ学校の備品と同じ机と椅子が置かれている。

「西堀さん」

 熊谷さんの声がして、ぼくはビクッとした。

「どうぞお座りください」と熊谷さんが言った。

 ニコニコしたおじさんだが、ニコニコしたまま拷問ごうもんしそうな雰囲気もある。

 今日ここへ来たのは、ぼくの意志である。

 何が起きても、ぼくの責任だ。

 ぼくは促されるまま、その席に着いた。

(つづく)

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