七章 アオちゃんを追うペパー
七章 アオちゃんを追うペパー
「健斗くん、こっち! ほら! あそこにアオちゃんがいる!」
土管の丘を越えたぼくは、先に到着していた白川さんの横にならび、公園内を見渡す。
「あっ! 見つけた!」
アオは、すべり台の上でじっとしている。横にいる彼女と目くばせをすると、ぼくたちは、ゆっくりとすべり台の後ろ側についている階段へと近づく。
一段ずつ慎重に登っていくと、灰色の毛をした猫の背中が見えた。
白川さんはぼくが逃したときのために真下で様子をうかがっているようだ。
そうっと、アオの後ろから手を伸ばしたそのとき――。
「ニャー!」
「⁉︎」
見つかってしまった! とっさに捕まえようとしたけど、アオはすべり台の坂を滑って行ってしまう。
「白川さん! 下いった!」
「まかせて!」
滑り台の下から白川さんがとび出す――けど、間に合わない。
「あああー!」
そのとき――。
アオの走るあとを、新体操のリボンのように長く黄色い紙が追いかける。
「ペパー!」
「二人とも、オイラにまかせろ!」
滑り台からジャングルジムへ移動したアオをペパーの紙が、ぐんぐんと伸びて追う。
ジャングルジムの中を右に左に走り回るその猫は、そのまま抜け出して、奥に見える茂みへと姿を消してしまった。
ペパーの紙は、そのあとを追う気配がない。どうしたのだろうと思い、白川さんと一緒にペパーのもとへ走り寄ると、黄色い紙がジャングルジムに絡まってしまっている。
「健斗ごめん……逃げられちゃった」
「ペパーは、よくやったよ。大丈夫?」
「大丈夫じゃないかな……悪いけど紙をちぎってくれないかい? オイラ自分じゃ切れないんだ」
「え? そうなんだ?」
「うん」
今日まで気にも留めていなかったけど、たしかにペパーが自分から紙を切っている姿は見たことなかったかもしれない。
ぼくは言われた通りに絡まった黄色い紙をちぎって、ペパーを動けるようにしてあげた。
「ふぅ、助かったよ健斗。琴音、猫を逃してしまった。ごめん」
「ううん、いいの。協力してくれてありがとう」
白川さんはそう言うと、ジャングルジムに絡まっている紙を片づけはじめた。
「あっ! ぼくも手伝うよ。このままにしておけないもんね」
「ところで健斗、このあとは、どうするんだよ? 猫が消えた茂みの先に行ってみるのか?」
ペパーの問いに答えようとしたとき、白川さんのスマホの着信音が突然鳴り出した。
「わっ! びっくりした! ママからだ」
彼女は画面を確認すると、慌ててそれを耳にあてた。
「もしもしママ? うん、うん……え! はぁい……」
会話の感じ、白川さんのお母さんが、なにを言っているのかは想像できる。
「今日は、もう帰ってきなさいって」
スマホをポケットに入れると、白川さんはぼくとペパーに、申し訳なさそうな声で伝えてきた。
「なんだよ琴音、これからってときに。なぁ、健斗」
「健斗くんもペパーも、ごめんね」
「仕方ないよ。もうすぐ陽も落ちるだろうし、また明日アオを探そう。ペパーもいいね?」
「まぁ、仕方ねーな。暗くなってから戻ったら健斗のお母さんに怒られそうだし」
「それじゃあ、明日、学校が終わったら集まろう」
「うん、そうだね。アオちゃん、ご飯とか大丈夫かな……」
「きっと大丈夫だよ。白川さんのお母さんも心配しているだろうし急いで帰ろう」
「うん」
白川さんの自宅前でバイバイしたあと、自分の家に戻ってきたぼくは、夕食のカレーを食べながら今日あったことをお母さんに話した。
「そういえば、健斗たちがマンションを出てすぐに琴音ちゃんのお母さんから電話がきたのよ」
「そうなの? なにか言っていた?」
「一応、ネットを使ってアオちゃんの情報がもらえるようにするって言っていたわ」
「そうか! それなら誰かがアオを見かけたときに連絡くれるかも!」
「そうね。明日も探すんでしょ?」
「もちろんだよ。ね、ペパー」
「おう!」
「二人とも、くれぐれも無理はしないようにしてね」
「「はーい」」
「健斗、今日は惜しかったよな」
食事を終えて部屋に戻ってくるとペパーが話しかけてきた。
「そうだね。白川さんのためにも早く見つけてあげたいね」
「ああ、そうだな。オイラ今日は疲れたから先に寝かせてもらうよ」
「ペパーって、寝るんだ?」
「当たり前だろ? なにを言っているんだ? オイラのことを、なんだと思っているんだよ」
「ごめんごめん、悪気はないんだよ。今日はありがとう、おやすみ」
ペパーは、おやすみを返してくると机の上にとびのって、目を閉じ大人しくなった。
本当に寝るんだ……こうしてあらためて見ると、どう見ても普通のトイレットペーパーにしか見えないなぁ。
「ん?」
いまさらだけど、ペパーの身体……ずいぶんと細くなっている? よく考えたら普通のトイレットペーパーなら使えば減るもんね。
もしかしてペパーの黄色い紙も使ったらなくなってしまうのかな? そんなことを考えていたら眠くなってきたので、少し疲れを取るため、ぼくもベッドの上で目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます