六章 ロシアンブルーのアオちゃんを大捜索
六章 ロシアンブルーのアオちゃんを大捜索
マンションをあとにしたぼくと白川さん、上着のフードに隠したペパーも、コンビニ近くの公園に到着した。ここは、謎のお爺さんからペパーをもらった場所だ。
ピロロ、ピロロ。
「わわっ。健斗くんごめん、ママからだ」
呼び出し音が聞こえてきたと思ったら、白川さんはポケットからスマホを取り出し、画面を見つめながら慣れた手つきで操作を始めた。
「スマホもっていたんだ? いいなぁ」
「テストのご褒美に買ってもらったの。あっ、ちょっとまってて」
白川さんは、そう言うと指を素早く動かす。
「アオちゃん、まだ見つからないって。ママのほうはそろそろ戻らないといけないらしくて、あとはお願いって言ってきた」
彼女はスマホをさわる指先をとめて言った。
「白川さんのお母さんって、どの辺を探していたの?」
「動物病院からコンビニの付近だと思うよ?」
「それなら、そっちは行かなくてもよさそうだね。ぼくらは公園のほうを集中して探そう」
「うん」
「健斗、この広い公園のどこから探すんだよ?」
白川さんと話しているとフードの中からペパーが声をかけてきた。
パッと見渡した感じだと、すべり台とかブランコ、ジャングルジムなんかは探す必要はなさそうだけど……。
「うーん。とりあえず身を隠せる場所を中心にかな?」
「それなら、すぐそこに見える公衆トイレなんてどうだい?」
「たしかに外からじゃ確認できないし、中にいる可能性はあるね。さっそく、確認してみよう」
「わたしは女子トイレのほうを見てくるね」
「うん。お願い」
白川さんが女子トイレに入っていく姿を確認すると、ぼくとペパーは男子トイレに入り、中を見渡してみた。けれど生き物がいる気配はない。念のため、個室のドアの裏側も確認してみる。
「健斗。どうやらトイレの中はいないみたいだね」
「そうだね。外に出ようか」
トイレから出ると白川さんがいた。先に確認を済ましていたようで、ぼくたちが戻ってくるのを、まっていたのだろう。
彼女は目が合うと首を左右にブンブンと振って見せる。女子トイレのほうもアオの姿は確認できなかったみたいだ。
「男子トイレもいなかったのね。健斗くん、次はあそこの中を確認してみるのはどうかな?」
そう言いながら白川さんは公園の奥に見える丘に向かって指を差した。
丘は中に土管が埋められていて、誰でも入れるようになっているから、たしかにあの中へ隠れている可能性はあるかもしれない。
あの土管を抜けた先には色々な遊具で遊べる複合遊具があるから、見つからなければ、次はそこを探してみようかな。
「よし! それじゃあ、土管の中を確認しよう!」
土管の中をのぞき込むと、うす暗くてアオがいるかどうかは入ってみないとわからなそうだ。
「健斗くん! それじゃあ、お願いね!」
中の様子を外から確認していると白川さんが声をかけてきた。
「え? いいけど、白川さんは入らないの?」
「わたしはスカートだから!」
たしかに足首まであるスカートだと、この中に入るのは少し大変そうだ。
「わかった。それじゃあ、ぼくとペパーで入ってくるから白川さんは丘の上から先に反対側に行っててよ」
「うん。もしアオちゃんがいたらお願いね」
「まかせておけ琴音!」
フードの中からペパーが返事をした。
「ペパーはぼくのフードに入っているだけじゃないか」
「細かいことは気にするなよ健斗」
「アハハ。二人ともお願いね」
「うん。それじゃあ中を見てくるよ」
土管の中をしゃがむように歩くと、靴底に砂利のような感触が伝わってくる。少し滑って歩きにくい。ぼくとペパーは、まっすぐ先に見える出口の光を目指してゆっくりと前へ進んだ。
「健斗、真っ暗でよく見えないよ!」
「大丈夫。ぼくは、だんだん目が慣れてきた!」
「なら、健斗にまかせた!」
「えー、ペパーもしっかり探してよ」
「無茶言うなよ。そもそも、オイラここからじゃ、よく見えないんだし」
たしかにペパーはフードの中だもんね……仕方ないか。
「どうだい? 猫いた?」
「うーん。残念ながら、いなそうだね……」
「そうか……いないのなら、さっさと出よう。なんだかこの中は狭くてきゅうくつだよ」
「フードの中のほうが狭そうだけどね」
「……」
「ハハハ。大丈夫、もうすぐ出口だよ」
「健斗くーん」
「お! 健斗! 琴音の声だ」
白川さんが手を振っているのが出口の穴から見える。丘の上を越えて反対側についたようだ。
「どうだった?」
土管の中から出ると白川さんが声をかけてきたので、ぼくは黙って首を横に振って見せた。
「そう……アオちゃんどこ行っちゃったのかなぁ……」
白川さんの声は少し元気がないように感じた。早く見つけてあげたい。
「わー! 猫だー! 可愛い!」
「「「⁉︎」」」
白川さんと話していると、人の声が耳に入ってきた。
「健斗くん! 聞こえた? 今、猫って!」
「うん! 聞こえたよ!」
「健斗! あそこじゃないか?」
ペパーが黄色い紙を手のように扱い、方向を示した先には複合遊具があり、数人の子が集まって一匹の猫をなでている。
「あっ! 白川さん、見て! あれ、アオじゃない⁉︎」
「え! ああっ! あの灰色の身体! 健斗くん、間違いないよ! アオだよ!」
「行こう! 逃げてしまう前に捕まえないと!」
急いでその場に向かうと、アオがこちらに駆け寄ってきた。
ぼくのことを覚えていてくれたの?
「アオ! おいで!」
走ってくるアオを受け止めようと、しゃがみこんで手を差し出すと――。
アオはぼくの頭上をとび越えて行ってしまった。
「ええええー!」
「健斗くん! あっち!」
白川さんが声をあげながら指差す方向へ視線を移すと、アオは土管の中へと入ってしまう。
「健斗! 急げ!」
「わかったペパー! 白川さんも急ごう!」
「健斗くん、こっち! 中を通るより上からのほうが早いよ!」
土管の中へ入ろうとした瞬間、白川さんがとめに入った。たしかに上からのほうが早そうだ。
「健斗! オイラは土管の中から行ってみるよ! もしかしたら引き返す可能性もある!」
「わかった! 頼むよペパー!」
ペパーがフードからとび出したのを横目に、ぼくは丘の上へ登る。
「健斗くん! 早く!」
先を走る白川さんがぼくを呼ぶ。
「わかってる! すぐに追いつくから白川さんは、先に行って!」
「うん!」
ここで見逃したら、探すのが難しくなっちゃう! 白川さんのためにも絶対にアオを捕まえなくちゃ!
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