四章 ペパーの紙はなんでもできる?
四章 ペパーの紙はなんでもできる?
「うらやましい! そんなことがあったなんて!」
ぼくは、ペパーのことをみんなには内緒にしてもらうため、白川さんに今日までのことを、すべて話した。
話が終わるころには用意されていたクッキーはなくなっていて、ジュースも残り少ない。
「そういうわけだから、このことは誰にも話さないで欲しいんだよ」
「うん、いいよ。あ! でも、条件があるかな」
「条件? なに?」
「わたしもペパーのお友達になりたいの!」
それってつまり、これからもぼくの部屋へ何度も遊びにくるってことだよね? うーん。断るわけにもいかなそうだなぁ……。
まあ、ペパーも白川さんのことを気に入っているようだし仕方がないかな。
「わかった、いいよ。でも今日みたく突然、遊びにくるのはやめてよね。前もって言って欲しい」
「ありがとう! 嬉しい!」
「あの……聞いてる?」
「うんうん。大丈夫!」
本当に大丈夫かなぁ……。
「ねえねえ、ペパーってなにか芸とかできるの?」
「芸?」
「うん。ほら、たとえば犬ならお手とか、おまわりとかあるでしょ?」
芸かぁ……たしかにペットなら、そういうことができたら嬉しいかも。
「でも、ペパーはお手なんて、できるのかな?」
ペパーの見た目はトイレットペーパーそのものだ。だから犬のようにお手をする姿は想像できないかも。
「やってみようよ!」
白川さんはそう言うと、お手、と声を出しながら自分の手の平を上にしてペパーの前に差し出した。
「ペパァ?」
「なにもしないね……ほら、お手だよ」
ペパーは白川さんの手を不安そうに見つめたまま動かない。
「いきなりは無理なんじゃないかな? そもそもお手を知らないと思うけど?」
「それもそうね……健斗くん、犬になって! ペパーちゃんにお手本を見せたほうがいいと思うの」
「お手本って……なんで、ぼくが犬なのさ」
「カワウソでもいいよ?」
「そういう問題じゃないんだけどなぁ」
「いいからいいから、ほら、ペパーちゃんにお手本を見せてあげて。お手!」
仕方がないので、言われるがまま白川さんの差し出した手の平の上へ、重ねるように、ぼくは手をのせた。
ペパーはじっと様子を見ている。
「健斗くん、もう一回!」
「え! またやるの?」
「当たり前じゃない。ペパーちゃんが覚えるまでやるからね」
「ふぇー」
結果、お手を何十回も繰り返しペパーにやって見せたけれど、本当に覚えているのかな? なんだか不安になってきた……。
「それじゃあ本番いくわよ。ペパーちゃん、お手!」
白川さんがそう言うと、ペパーは巻かれている黄色い紙をシュルシュルとはき出し、それを自在に操って彼女の手の平へ重ねるようにのせた。
「ああっ!」
「見て、健斗くん! お手っぽい!」
「うん。お手だね!」
「ペパーちゃん、えらいね!」
白川さんはそう言うとペパーをやさしくなでる。
「ペパパ!」
「健斗くん、見て、嬉しそうだよ」
「そうだね」
二人でペパーが喜んでいる様子を眺めていると、巻かれている黄色い紙が、またシュルシュルと伸びはじめる。
すると、今度は複雑に折られて可愛いお花の形に変わった。
ペパーは黄色い紙で作ったお花を白川さんに差し出した。
「うわぁ、わたしにくれるの?」
彼女はそう言うと、差し出されたお花の部分だけをちぎり、自身の頭に合わせて見せた。
「似合うかな?」
白川さんの言葉にペパーは目を細め、嬉しそうな表情をすると、小刻みにピョンピョン跳ねた。
「ありがとう。ペパー、大好き!」
黄色いトイレットペーパーを頬にスリスリとしている白川さんは本当に嬉しそうで、ちょっとやきもちを焼いてしまいそう。
「それにしてもペパーの黄色い紙はすごいなぁ……いったいどうなっているんだろう?」
「本当よね。このお花、布みたいに丈夫なのよ? ほら、さわってみて」
ぼくは黄色い紙のお花を受け取った。
「本当だ。ペパーに巻かれている紙は、ぼくたちの知っているトイレットペーパーとは違うんだね」
「健斗くん。ペパーの紙を使ったら色々なことができそうだよね! わたし新体操のリボンとか欲しかったの!」
「そうだね。ぼくはそうだなぁ……あっ! もしかしたらターザンロープとかできるかも!」
「わぁ! いいね、楽しそう。でもそれって、この部屋だと難しいかな」
たしかに、新体操のリボンやターザンロープもぼくの部屋では狭くて難しそうだ。
無理してやったら、あちこちにぶつかって怪我をしてしまいそうだし、もしも壁に穴を開けてしまったらお母さんに怒られちゃう。
「そうだ! 小学校のとなりにある公園に行こうよ」
「そうね! 今日は日曜日だから、あそこなら誰もこないものね」
「決まりだ。行こう!」
「うん!」
ぼくの通っている小学校から少し離れたところに小さな公園がある。
今日みたいな休日は人がくることは、ほとんどない。
ここだったら周りの目を気にしないでペパーと遊べそうだ。
「息苦しいところに閉じ込めてごめんね、ペパー」
公園についたぼくたちは、念のため人がいないことを確認すると、ペパーの入ったリュックを開ける。
「ペパァ」
いつものようにペパーは、一声鳴くと、ぼくの腕の中にとび込んできた。
「健斗くん。わたしからペパーにお願いしてもいい?」
「うん。いいよ」
「やったぁ! ペパーちゃん、わたしとっても長い新体操のリボンが欲しいの。お願い聞いてくれる?」
白川さんが話しかけると、ペパーに巻かれている黄色い紙の端が少しだけめくれた。
「ペパァ!」
「えーっと……」
「白川さん。ペパーは、そこから紙をひっぱれって言ってるのかも」
「あ! そうなのね!」
そう言うと、彼女はペパーの黄色い紙をつかんで、そのまま、まっすぐ走り出す。
黄色い紙はぐんぐんと長く引き出されていくとペパーの身体はくるくると回転する。
白川さんは立ち止まり、勢いよく紙をひっぱるとビリッと音を立てて切れた。
「みてみて!」
白川さんは黄色い紙で作られたリボンをにぎり、円を描くように動かすと、リボンは地面からフワッと浮かびあがる。
「すごいすごい!」
公園の中を舞う黄色いリボンは、まるで生きているような動きをしていて、それを扱う白川さんの姿に目が釘づけになってしまった。
「健斗くんもやってみる?」
「え? ぼくはうまく扱えなそうだから、やめておくよ」
そっかー! と白川さんは返事をすると、再びリボンをくるくると回転させて楽しんでいる。
リボンも楽しそうだけど、絡ませてしまいそうだし、ぼくは別にやってみたいことがあるんだ。
そう、ターザンロープをやってみたい!
ちょうど、ここの公園には立派な木がたくさんあるし、そこに結びつけたらできそうだ。
ぼくはさっそく、ペパーにお願いをしてみることにした。
「ペパー。ぼくにも白川さんのように、長い紙を出してほしいんだ」
ペパァは、すぐに理解ができたのか、黄色い紙が少しだけめくれた。
それをつかむと奥に見える木まで走る。
「よし。あとはこの紙を木の上のほうに結びつけないとだね」
木登りなんてひさしぶりだけど、ぼくは迷わず目の前の木にとびついた。
「よっと! できるだけ木にくっつくように登っていかないと……」
ぼくは気合いを入れて一生懸命登ると、ゴツゴツとした木の感触が手に伝わる。
「あと少しだ……よし! ついた!」
木の上からの景色は絶景で、キリンやゾウから見たら、きっとこんな感じなのだろうと思う。
「この枝は丈夫そうだな」
しっかりした太い枝に、ペパーの紙を結びつけたぼくは、注意しながらゆっくりと木から降りた。
上から垂れた黄色い紙の下をちぎり、団子結びをして足場を作る。
「これで、ここに両足をかければ、のることができそう」
ぼくはロープがわりにまっすぐ伸びた黄色い紙へと勢いよくしがみつくと、景色が揺れて見える。
「健斗くん、なにしてるのー?」
白川さんが声をかけながら走り寄ってきた。
しがみついている紙はブランコのように前後に動き、次第に揺れが大きくなり――。
ぼくはにぎっていた手を離すと、おもいきりジャンプをして地面に着地して見せる。
「すごいっ!」
白川さんは、そう言いながら拍手をしてくれた。
ぼくたち二人は陽が暮れるまでペパーと遊び続けて、楽しい一日だった。
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