第3話
中村君と鮎川君はお互いの証言がありアリバイは立証された。浜井も山中の証言によりアリバイが立証された。全員にアリバイがると言うことは、この場に犯人はいなということだ。お、僕がしていたことも時間の無駄だったってことだ。ああ、江川にはなんて言おうか。結局解決しなかったと。幻滅されるかな。それよりも今は、目の前の3人に対しての謝罪だ。も違いを認めることは恥ずかいいことだが、間違いを認められない人間はもっと恥だ。
「3人とも勝手に疑って悪かった。この中に犯人がいないのであれば、どれだけ議論をしても無駄になるだけだ。みな忙しいのに付き合わせてしまい申し訳ない。謝ることしか僕にはできないけど、みなの疑いは晴れた。江川には僕の方から解決できなかったことを伝えておく。本当に申し訳なかった」
3人はそれぞれ小声で、というか中村君が圧倒的に文句を言っていた。「無駄に時間使ってしまった」とか「先輩になんて言おう」とか。この子は、結構根に持つタイプなんだと思った。鮎川君は「用事がある」と言っていたからすぐに帰ろうとし、浜井は「部活に行かないと」と言いながら、カバンからクリームパンを取り出していた。僕もそろそろ帰るために教室に戻ろうとしていると、誰かが僕らに向けて話しかけた。
「まだ事件は解決していないよね。なのにどうしてみんな帰ろうとしているんだい?」
この場に現れたのは、3組の
「解決していないのにとはどういうことかな。僕たちは話し合って解決はできなかったけど、この中に犯人はいないということを導き出した。予想もしていなかった愉快犯の可能性が1番高いのだ。解決はもはや無理だろ」
上野は余裕の笑みを浮かべていた。
僕ははっきりってこの男が苦手だ。この笑みが鬱陶しい。見ててイライラする。
「本当にそうかな?」
「と言うと?」
「ここは靴箱だよ。靴箱に来る用事と言えばなんだと思う。ああ、そこの中村君のように部活の用事を除いて」
そんなの決まっている。
「帰るためったこと?」
中村君が首を傾げながら言う。
「そうだよ。本来靴箱は来た時と帰るとき、体育のときなど、靴を履き替えるためにしかくる用事がない場所だ。如月が君に訊きたいことがあるらしいよ」
上野は僕の方を見ていて、目が合ってしまった。目が合った瞬間に目を逸らして如月の方を見る。
「僕に訊きたいことって何かな?」
如月は深くため息を吐いてこう言った。
「加賀屋さん。あなたはいつも最後まで教室に残って、みなさんの机を綺麗に並べてから帰っていますよね。そんな几帳面なあなたが、どうして今日は机を並べ直すことをせずに帰ろうとしているのですか?」
「そ、それは、今日は用事があって、本当は直したかったけど、時間がなかったから仕方なくだよ」
如月はにっこりと僕に笑いかけた。
「ではなぜ、カバンを教室に置いてきたままなのでしょう。帰ると言うのなら、カバンを持っていないとおかしいですよね」
「だーれも気がついていなかったみたいだけど、怪しい人物はもう1人いたってことだよ」
上野がヤジを飛ばす。僕はそれを無視して、如月の問いに答える。
「急いでいて、カバンを忘れてしまっただけだよ。取りに戻る前にこんな事件が起きたのだから、学級委員としては見て見ぬふりはできないだろ」
「なるほど。さすが学級委員ですね。ですが、用事の方は大丈夫なのですか?」
「ああ、用事があったことは確かだが、絶対ではなかったからな。また今度済ませばなんとかなるよ」
如月の背後で笑いを堪えている上野の存在が気になる。とても目障りだ。
「では、もう1つお聞きします。これは加賀屋さん。あなたもみなさんに聞いていたことですが、5時間目が終わった休み時間は何をしていたのですか?」
「君その時間急いでどこかへ行っていたよね。さて、どこへ急いでいたのかな? 廊下を走っていたことは知っているから」
相変わらず上野はヤジを飛ばす。そんな上野を無視して、如月の問いに答える。
「あの時はお腹を壊していて、トイレにずっと篭っていたんだよ」
「それはどこのトイレですか?」
「どこって。そんなのどこでもいいだろ。そんな恥ずかしいこと聞くなよ」
「どこでもなんてよくないんですよ。あの時間、同じく中田さんたち学食組の男子8人全員が、腹痛を起こしていて近場のトイレは全て埋めてしまっていたのですよ」
この学校の男子便所にある大便器は全部で30個。そのうちの2つは運動場の左右に設置されていて、部活や体育以外では遠すぎて極端に使いづらい。特別棟も2階以上の渡り廊下を渡らないといけないから、体育終わりで尚且つ1階に教室がある僕らが行くことは時間的に難しい。文化棟のトイレは体育館の奥にあるから現実的じゃない。僕らが授業を受けている教室棟は各階に4個かける3階で12個。対角になっている一番遠いところは行けないとしても、余りは10個ある。その内の手前から8個埋まっていたとしよう。1階の4個。2階の2個。3階の2個。2階のトイレはまだ2つ空いている。
「2階の奥のトイレだよ。埋まっていたからわざわざ遠くまで行ったんだよ」
相変わらず上野は腹を抱えて笑っている。気に食わないが今は我慢だ。
「嘘ですよ」
「はあ‼︎」
いけない。ついカッとなって怖い声が出てしまった。聞かれてはいるとは思うが一応咳払いはしておこう。
「それで如月さん。“嘘”とは一体なんのことかな?」
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