第2話

 情報を整理すると、鮎川君は被害者の真後ろくらいでいて、中村君は被害者の右隣。浜井は……階段の影でパンを食っていたと。

 僕ら以外の人間は見ていないから、犯人はこの中にいるとは思うけど、仕掛けだけして逃げた犯人がいたということなのか。

 そんな中、どこかに行っていた被害者で僕のクラスメイトの江川陽葵えがわひまりが帰ってきていた。

 

「あの……加賀屋君。犯人を探してくれているのはありがたいけど、もう大丈夫だよ。私陸上部だし、予備の靴も持っているから。それにほら、この靴もう古いから捨てようと思っていたんだ」

 

 汚れた靴を見せられても、納得できるものではない。被害者が泣き寝入りをするしかない社会は間違っている。こんなことをする犯人は許してはならない。

 

「たとえ捨てようと思っていた靴だったとしても、僕はこんなことをしでかしたやつを許せない! 江川、悪いが江川からも話を聞かせてくれないか?」

 

 江川は頷いて顎に手を当てる。

 

「うん……あのね。今日は面談だったから、遅れて部活に行こうとしたら、こんなことになっていて、結局まだ部活も行けずじまい。最初はね、靴箱に入れていた日焼け止めでも漏れたのかなって思ったけど、日焼け止めは無事だったから、何だったんだろうね。まあ、水で洗えば落ちたし、長く履いていて、そろそろ変えようかと思っていたから、捨てるきっかけができてよかったよ」

 

 江川はどうしても早く終わらせたいみたいだけど、僕がそうはさせない。

 

「江川。そういえば、今日の4時間目、女子は体育外じゃなかったか?」

 

 江川は何かを閃いたように手を打って応えた。

 

「あっ! 確かに。その時は何も起きていなかったな。普通に授業をしていたね」

 

「じゃあ、生クリームを靴の上に置けたのは、5時間目と6時間目の間の休み時間ということになるのか」

 

 その間は約10分間。アリバイのないやつの方が少ないだろ。

 

「あ、あの……私そろそろいいかな。あんまり遅れちゃうと、先生にも怒られるし、他の子との差もついちゃうから」

 

 解決までの道筋が見えてきたというのに、江川はどうしても部活に行きたいようだ。江川は解決させる気はあるのだろうか。本当にこのまま泣き寝入りをするつもりじゃないだろな。そんなことは僕が許さない。

 

「わかった。あとは僕が引き継ぎよ」

 

「ありがとう加賀屋君。でも、本当にもう気にしないでいいから。犯人探しは大丈夫だよ」

 

 江川はそう言って駆け足でこの場を離れた。

 

「本人がいいって言っているのだから、俺は帰らせてもらうぞ」

 

「僕もそろそろ部活行かないといけないから」

 

「ぼ、僕も、帰ってみたいアニメがあるから……」

 

 帰ろうとしていた3人を僕は再び止めた。

 

「3人とも悪いが、もう1度話を聞かせてくれ。5時間目と6時間目の休み時間にどこにいて何をしていたのか」

 

 ため息を吐きながら1番に答えてくれたのは中村君だった。

 

「それなら、僕と鮎川にはアリバイがある。僕らはお互いトイレにも行かずにずっと教室にいた。連結授業の間だったから、雰囲気的にトイレにも行きづらかったから。外に出た人間は覚えているよ。みんなの視線を集めていたから」

 

「中村の言う通り俺もずっと教室にいた。扉を開けると暑いからって、締め切られていたから、トイレに行きたい奴は行きづらかったと思う」

 

 なるほど。この2人はアリバイがあるのか。となると、アリバイがないのは……。

 

「ぼ、僕は6時間目が体育だったから、着替えてすぐに体育館に行ったよ。学年が一緒だから、体育館でバレーをしていることは知っているよね。準備を手伝っていたから、早めに行ったんだよ」

 

 にわかには信じれない話だな。というか、中学の時も、点数稼ぎに先生の手伝いとかしていたのまだしていたのか。相変わらずゴマスリが上手いことで。

 

「例えバレーの準備をしていたとしても、それを証明できる人間はこの場にはいない」

 

「そんなあ……本当に僕じゃないんだ!」

 

 疑いの目が浜井にかかっているところに、男女2人が現れる。その2人の姿を見て、落胆していた浜井は、一気に元気を取り戻した。

 

「や、山中君! ちょっと今大変なことになっているんだ。ちょっとでいいから話を聞かせてくれない!」

 

 浜井が言う山中は突然のことに困惑して言いた。隣の女子も、何が起きたのかと首を傾げていた。

 山中は女子の方を見つめ、女子が頷くと浜井を見て口を開く。

 

「わかったよ。僕にできることなら協力するよ」

 

 いいやつだなと思った。

 

「ありがとう山中君。実は色々あって、詳しいことは話せないんだけど、僕の5時間目と6時間目の休み時間の行動について話をして欲しいんだ」

 

 浜井の焦りが伝わってくる言葉だ。山中だって、イマイチ理解していない顔だ。

 

「つまり、5時間目と6時間目の休み時間に何をしていたのか話せばいいんだね」

 

 山中の言葉に浜井は無言で何度も頷く。

 

「えーっと。確か僕らは6時間目が体育だったから、着替えてすぎに体育館に向かっていたと思うよ。僕は体育委員をしているんだけど、浜井君は準備を手伝ってくれたから、その休み時間にはトイレにも行く時間はなかったと思うよ」

 

 浜井は僕の方を見ながら、だから言っただろと言いたそうに首を縦に振っていた。

 

「ところで何があったの?」

 

 隣にいた女子が浜井に聞いていたが、ことが大きくなるのは、江川自身も望んでいなかったから、この2人には帰ってもらおう。

 

「2人とも引き留めてしまいすまない。もう大丈夫だから、遅くなる前に帰るといい」

 

 山中は納得していないような顔を浮かべたが、隣の女子の方は楽天的な性格のようで、僕が言うや否や山中の手を取りこう言った。

 

「私たちに話せないってことは、私たちには関係ないってことだよ。だから健帰ろ」

 

「……そうだね」

 

 山中はまだ納得していない様子だったけど、女子に無理やり連れて行かれて、2人は帰っていった。

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