第38話
「ええっ!? なんで榛名先生までいるの!?」
ナースステーションにいた瑞樹さんが驚いた声を上げた。そりゃそうだ。今日は休日のはずの俺が何故か雨宮さんの旦那さんと一緒に現われたのだから。
「事情はあとで話します……! それより雨宮さんはどうなんですか!?」
「今は落ち着いて病室で寝てる。お腹の張りと痛みで動けなくなったみたい。切迫流産の可能性があるから今日からこのまま入院してもらうことになるけど」
「切迫流産って……」
俺の隣にいた雨宮さんの旦那さんが青い顔をして呟いた。
「旦那様、ですか? 雨宮さんの状態と今後についてご説明しますのでこちらへ」
瑞樹さんはナースステーションから出て、執務室へと案内する。二人の後ろ姿を見送り、俺は廊下にひとり佇む。
このまま帰るか、せめて雨宮さんの顔を見てから帰ろうか悩み、ひとまず病院の休憩室へ行こうと反対側の廊下を歩き始めた時だった。
「先ほどはお電話ありがとうございました。旦那様がお見えになられたのでもう大丈夫ですよ」
誰かに礼を言っている声が聞こえ俺は足を止めて振り返る。
「あなたが理子を助けてくださったんですね……本当にありがとうございました」
旦那さんが切羽詰まった声で礼を言うと、女性は立ち上がりぺこりと頭を下げる。
「百衣さん!!」
「あ……千昭さん!」
「あら、知り合い?」
瑞樹さんは再び意外そうな顔をした。俺が曖昧な返事を返すと瑞樹さんもそれ以上は追求せず雨宮さんの旦那さんと連れだって、執務室へと向かっていった。
二人の背中が見えなくなるのを見届け、俺は百衣さんに改めて向き直る。
「い、一吹君は?」
そういえば電話をくれた一吹くんの姿が見えない。
「さすがに病院の中に入るわけにはいからないから……」
百衣さんは気まずそうに笑った。「そっか」と俺も苦笑した。
「電話くれて本当にありがとう。お蔭でひとまずは大事に至らなそうだよ」
百衣さんは首を小さく振る。
「連絡先教えてくれてありがとう。私だけだったらどうしていいか分からなかったから……あと、この間は私を助けてくれたのに寝ちゃっててごめんなさい。ずっと謝りたかったんです」
「ぜ、全然だよ。もう体調はいいの?」
「うん」
百衣さんは小さく頷く。それからお互いに無言になった。俺は何故だか緊張していて何を話せばいいのか分からくなった。
どうして雨宮さんを見つけたの?
昼間も普通に活動できるの?
俺の母さんのことはどうして知っているの?
父さんのことは? 父さんの死んだ理由に君は関わっているの?
聞きたいことなら山ほどあるはずなのに何も出てこない。こんなに日の明るい時間に彼女の店以外、しかも自分の職場で会っているのが不思議で気持ちがふわふわしていた。
「じゃあ、私は帰りますね」
俺にぺこっと頭を下げて百衣さんは歩き始める。俺の横を通り過ぎて、エレベーターへ向かっていく。
「待って!」
俺は慌てて百衣さんを呼び止める。何も聞けない代わりに、俺はひとつの賭けに出ることにした。
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