第43話 いますって

 同じ会社の後輩の彼女は、ひどく寝起きが悪い。

 起床時間になると毎朝、起きるのを拒否して布団の中に潜り込む。

 そんな彼女がなんとも可愛らしくて、毎朝からかってしまう。


「あれ?どこいったんだ?もしかして今日は先に行っちゃったのか?」


 わざとそんな事を言ってみたり。


「なんだ、残念だな。せっかく朝飯作ろうと思ったのに」

「※〜△☓」


 モゴモゴと、布団の中から声が聞こえる。

 でも、小さくて何を言っているのか全く聞き取れない。

 さらに追い打ちをかけるように


「さて、ひとりで朝飯でも食うか!」


 と布団に向かって言うと。


「いますって」


 ようやく、布団の中から聞き取れる言葉が聞こえた。

 その言葉に、あらぬ妄想が頭の中に広がり、ドキッとしてしまう。


 えっ?いまなんて?


「ん?聞こえないぞ?」

「だから、いますって!」

「え……どこ?」


 ドキドキしながら問いかけると、


「ここ……」


 恥ずかしそうにピョコッと布団から顔を出した彼女は、人差し指で自分の鼻の頭を指している。

 寝癖のついた彼女の頭を撫でながら、その鼻の頭を軽くチュッと吸うと、


「なっ!なにするんですかっ!」


 彼女は寝ぼけ眼を見開き、見る見る顔を赤くした。


「なにって……だって、『今吸って』、って言うから」

「は……?ちっ、違いますっ!」


 慌てた様子で起き上がり、もじもじとする彼女の姿が、やはりなんとも愛らしい。


「もう、目、覚めたな?飯にするぞ」


 もう一度寝癖のついた頭をクシャクシャと撫でてから、手を取って起き上がらせる。


 ほんとはちゃんと気づいてたさ。

『居ますって』、って言ってたんだよな。

 ただ、ちょっとイチャつきたかっただけなんだ。

 あんまりにも可愛いから、さ。


【終】

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