第44話 好奇心

「お母さん、ねぇねぇ、お母さん!」


 子供が在宅勤務をしている母親の周りに纏わりつく。


「ごめんね、今忙しいからちょっと待っててくれる?」


 申し訳無さそうな顔で母親はそう言い、パソコンに向かっている。

 暫くは大人しくしていた子供だったが、そのうちに再び母親の周りに纏わりつきはじめた。


「ねぇねぇ、お母さん!」

「なに?」


 少し苛ついた声を上げる母親。


「もう少しだから、待っててって」

「ゲキリンて、なぁに?」


 母親の膝の上によじ登り、母の腕を掴もうとした子供の手がツルリと滑って、パソコンのキーボードの上に落ちる。


 と。


 画面を埋め尽くしていたデータが一瞬にして消えた。


「……なにしてんのっ!少し待っててって言ったでしょっ!」


 母親の悲鳴のような怒鳴り声が部屋中に響いた。


 図らずも、子供は身を持って『逆鱗に触れる』という体験をしてしまったようだ。


【終】

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