第42話 どちらにしても

「お兄ちゃん!大変っ、おばあちゃんがっ!老衰でっ!」


 朝一番で、実家住まいの妹からの電話に叩き起こされて、イッキに目が覚めた。


「早くっ!早く来てっ!」

「わかった!すぐ行くっ!」


 取るものもとりあえず、寝癖の頭のままで実家へと急ぐ。


 が。


 老衰でって……もう、どんだけ急いだって間に合わないじゃないか……


 そう思うと、途端に足が重たくなった。


 それでも急ぎぎみに実家に向かうと、そこに信じられない光景が。


 ビショビショに濡れたばあちゃんが、家の外をウロついているのだ。

 もしや、最期に間に合わなかった孫を、肉体から離れて自ら迎えに来たか。


 思わず立ち尽くしていると、家の中から妹が飛び出してきて、ばあちゃんにバスタオルを巻き付けた。


 ぬおっ!?

 妹よ、お前もしや、視えるヤツだったのか!?


 などと思い、なおも立ちつくしていると、気付いた妹がその場で大声を上げた。


「なにしてんのよっ、お兄ちゃんっ!早く来てって言ったじゃないっ!もー、家の中ビショビショで大変なんだってば、ロウスイでっ!」


 ……ん?

 ロウスイ?

 ……漏水!?


「おばあちゃんの部屋の真上の配管から漏れてるらしくてさ、水道屋さん呼んだんだけどまだ来ないの。お兄ちゃんも片付け手伝って!」


 取り敢えずはホッとしながらも、どちらにしても大変なことには変わらない。

 バスタオルに包まれたばあちゃんの肩を抱いて家の中へと入ると、家の中とは思えないような、滝の流れるような音が聞こえてきた。


 ……老衰よりは全然いい。

 そうだ。

 ばあちゃんは、ちゃんと元気なのだから。


 ばあちゃんの部屋の天井から流れ落ちる水を見ながら、そんなことを思った。


【終】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る