第41話 永遠の命
ある博物館にて。
新たに就任した館長は、恐る恐るその部屋の扉を開けた。
従業員時代には『開かずの扉』とされていた扉だ。代々、館長にしか扉の鍵は受け継がれず、入ることも、中を覗くことすら叶わない。
「やぁ、いらっしゃい」
部屋の主が館長を出迎えた。
先代館長からの引き継ぎの時に一度会ったきり。館長がこの部屋の主に会うのは二度目だ。
「もうちょっと頻繁に来てくれると有り難いねぇ。前の館長はもっと頻繁に来てくれたんだけどな」
そう言って、部屋の主はカタカタと笑った。文字通り、カタカタと。
その姿に、館長はぶるりと体を震わせた。
まだ二度目だ、馴れるはずがない。
生きて動く、骸骨なんて!
前館長の説明では、この博物館の初代館長が展示品を収集している時に、偶然手に入った発掘されたばかりの骸骨とのこと。
展示準備も終わり、いよいよ翌日オープンという日の深夜、館内を見回っていた時に、展示ケースから抜け出して歩き回っていた骸骨と遭遇し、それからの付き合いだという。
名前はと問えば、昔のこと過ぎて忘れてしまったとのこと。
筋肉もないのになぜ動けるかと問えば、生前の記憶だとか。
声帯もないのになぜ喋れるかと問えば、一種の無音声伝達だとか。
そもそもなぜこのような姿で生きているのかと問えば、何度も諭されたにも関わらず、呪術者に無理にお願いをして永遠の命を手に入れたからだと。
「食べることも飲むことできないから、楽しみといえば人と話して色々教えてもらうことだけだからさ。頼むよ」
不用意にうっかり永遠の命を手に入れてしまった骸骨は、肉体を失ってもなお、死ぬことが叶わないのだ。
「ねぇ、永遠の命に興味は無い?」
そう言いながら、骸骨がグイッと身を乗り出してきた。仰け反りながら、慌てて両手と首を振る。
「いえ、全然!」
前館長から言われているのだ。決して骸骨の誘惑に乗ってはいけないと。何故なら、誘惑に乗ったとたん、「永遠の命」という呪縛は、骸骨から自分へと乗り移ってしまうからだ。
「なんだ、意気地がないなぁ」
それほど気を悪くした様子もなく、骸骨はカタカタと笑う。
「骸骨と永遠の命なんて、正反対すぎて笑っちゃうよね。ほんと、あの呪術師も中途半端な術を掛けてくれたよなぁ、まったく。きいてくれる?大変だったんだよ、ここまで綺麗に骨になるまで。命はあるけど、肉体は老いていくでしょ?老いるどころか気づけば腐ってきちゃってさ。おまけに骨になってから山の中で寝てたら、見つけた親切な人に埋葬されちゃって。日の目を見るまで随分時間が掛かったんだよ、もう暇で暇で仕方なかったんだから」
骸骨の話に耳を傾けながら、思った。
永遠の命なんて、望むものじゃないと。
【終】
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