第40話 のろいの鏡

 ある日友人が家を訪ねてきた。深刻そうな顔をしたその友人を招き入れると、友人は言った。


「貰ってほしいものがある」


 それはなんだろうと興味津々で見ていると、友人は鞄の中から、一般的な大きさで黒い縁取りのある手鏡を取り出して言った。


「のろいの鏡」

「えっ!?」


 友人の発したイントネーションが少し気になったが、友人のあまりの深刻そうな顔に、固唾を呑んで手鏡を見る。


「それはどんな……」

「とにかく、使えない」

「えっ!?」


 現物を目の前にしてそんなことを言っていいのかとハラハラしてしまうほど、友人は吐き捨てるように言葉を発する。ただ、相変わらず表情は深刻そのもの。


「使ってみればわかると思うけどね。それでこの鏡は、最低13日以上は使ってから、その後最も信用できる人に貰ってもらわないと、呪われるらしい」

「えぇっ!?」


 それは酷い話だ。

 言われた方だって、『最も信用できる人』などと言われたら、断りづらいじゃないか!


「たった13日使って、それから君の最も信用できる人に貰ってもらえばいいだけなんだ。なぁ、貰ってくれないか?」


 友人に押し切られる形で、結局その手鏡を受け取ってしまった。

 なんにせよ、13日間は使わなければならないのだと、恐る恐る手鏡を手に取り、正面から覗き込む。

 のろいの鏡というくらいだから、なにかオドロオドロシイモノが背後にでも映り込むのではないかと構えていたものの、それはごく普通の鏡に見えた。

 中にいたのは、緊張顔の自分の姿だけ。


「なんだ、普通の鏡じゃないか。もしかして冗談だったのか?」


 思わず、鏡を見ながら頬を緩めた。

 だが、鏡の中の自分はまだ緊張顔のまま。

 ややあって、頬を緩めた。


 どういうことだ?

 気の所為か?錯覚か?


 それから、鏡に向かって色々とリアクションを取ってみたが、鏡はどれもワンテンポ遅れたリアクションを返してくる。


『のろいの鏡』

『とにかく、使えない』


 友人の言葉の意味がようやくわかった。

 この鏡は、とにかく反応がノロいのだ。

 だから、使えない。


 こうなってくると、本当に呪われるのかどうかも疑わしいものだが、とにかく13日は我慢して使って、最も信用できる人に貰ってもらった方がいいだろう。


 ……次は頼んだよ、そこのあなた。


【終】

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