第37話 勧誘
旦那の仕事がようやく軌道に乗り始めてきた。制作した作品が売れるようになってきたのだ。アンティークな雰囲気に拘って作り続けた作品が、ようやく日の目を見たらしい。大量の発注を受け、舞い上がっていた。
もちろん、家計的にも大助かりだ。
脱サラして今まで、旦那の収入は全く当てにはできなかったのが、これからは当てにすることができるのだから。
それから暫く経ったある日、町内会で何度か顔を合わせている奥様に呼び止められ、お宅へ招かれた。
「最近どう?」
この奥様は、うちの旦那が脱サラをして作品を制作するようになった所までは知っている。最近まで旦那の作品は泣かず飛ばずだったので、一応心配してくれているのだろう。もしかしたら、町内会の他の奥様方との話のネタにされているのかもしれないが。
「ええ、まぁ、なんとか」
当たり障りのない返事をしたところ、奥様は立ち上がり、奥から何やら持ち出してきた。
「ワタクシね、◯◯◯◯の会っていうところの会員になったのだけれど、これ!これを購入してからイイコトづくめなのよ!先日も、主人が役員に昇格してねぇ」
奥様の言葉は、申し訳ないけど半分も耳に入って来なかった。何故なら、奥様が購入したというソレは、うちの旦那が制作している……
「ねぇ、あなたも◯◯◯◯に入らない?今ならこの壺、お安く購入できるわよ?ワタクシの紹介ということで」
少しだけ興味のあるフリをして確認してみたものの、壺は間違いなくうちの旦那が制作したもの。
もちろん、「今は生活に余裕がないので」と丁重にお断りして、奥様宅を後にした。
まさか、『その壺、うちの旦那が作っています』なんて、言えるわけがない。
そして、まさか言えるわけがない。
『◯◯◯◯、怪しいですね』などと。
あの奥様を敵に回しては、この町内では上手く生活していくことは難しいのだから。
それに、◯◯◯◯が潰れてしまっては、我が家の収入にも影響が出てしまうのだから。
【終】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます