第31話 不老

 どうにかして人間の魂を手に入れたいと考えていた悪魔は、ふと妙案を思いつき、早速実行に移した。


「このお風呂に入ると、不老になれますよ」


 妙齢の男女を見つけると、悪魔は手当たり次第に声を掛けた。この風呂に入れば、30年後も50年後も、今の姿を保てると映像付きで説明もした。

 人間の多くは、老いを忌み怖がる。

 悪魔は多くの人間が飛び付いてくるものとばかり思っていたが、予想に反して反応は鈍かった。皆、周りが歳を取っていく中、自分だけが不自然に若いことを否と感じているようだった。


 あまりの反応の鈍さにがっかりしていた悪魔だったが、ようやくひとりの人間がひっかかった。


「本当に、このお風呂に入るだけで、不老になれるの?」

「はい。本当でございます」


 営業用のスマイルを顔に貼り付け、悪魔は頷き、イソイソと人間を風呂へと誘導する。引っかかった人間は、希望に満ちた目で風呂に身を沈め、そして死んだ。


 にへらっと笑い、悪魔はたった今死んだばかりの人間の魂を手にした。

 魂は、悪魔の手の中で抗議するように激しく暴れまわったが、逃れることは叶わなかった。


「嘘は言っていないぞ?死んだら年は取らないからな」


【終】

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