第30話 にじ

 せっかくのお休み。外は大雨。

 お出かけもキャンセルになり、不貞腐れて寝転がっていた妹は、気づかぬ内に眠っていた。

 兄は既に眠っている。外出に備えて昼寝をしているらしい。

 兄は晴れ男だ。兄が出かける午後の時間には雨は止んでいると、気象予報士がテレビで言っていた。

 ウトウトと眠りに落ちていた妹がふと目を覚まし、寝転がった窓から外を見上げると、雨は止み、青空が広がっていた。予報より早めに雨が上がったようだ。

 これならお出かけもできたのにと、妹は起き上がって恨めしげな目を窓の外の更に遠くへと向ける。


 と。


「あっ!」


 妹の顔がぱぁっと明るくなった。

 急いでスマホを取り出し写真を撮り、それから傍らでまだ眠りこけている兄を叩き起こす。


「お兄ちゃん、起きて!」

「んぁ?う~ん……」

「起きてってば!虹だよ、虹っ!」

「えぇっ?!」


 ガバリと体を起こし、兄は窓の外を見ることなく、鏡の前で髪型を確認すると、慌てて家から飛び出して行ってしまった。

 今の時間は午後1時

 兄が出かける時間は、2時だと聞いていたのに。


「予定、早まったのかなぁ?」


 妹は、窓枠に腕をかけて、再び青空に掛かる大きな虹を見上げた。


「きれいな虹……」


 虹はもう、うっすらと消えかかっている。


「お兄ちゃんも、虹、見られたかなぁ?」


 妹は、虹がすっかり消えてしまうまで、青空を見続けていた。


【終】

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