第29話 おばけ

「もう寝なさい」

「やだー!もっとお化けのお話してー!」

「もっと聞きたいー!」


 共働きの姉夫婦の家に、甥っ子たちの面倒を見に来るのだが、ここの子どもたちは夜鷹でなかなか寝てくれない。

『遅くまで起きてると、お化けがでてくるよ?』と脅したところ、逆に『どんなお化けがいるの?』と聞かれ、お化けの話をする羽目になってしまった。

 あまり怖がらせてしまうと余計に寝てくれなくなると思い、一反木綿や子泣きじじいなど、それほど怖くないお化けの話をしてみたのだが、逆効果だったようだ。


「ちょっと待って。トイレに行ってくるから」


 いい加減疲れてしまい、休憩の口実にリビングを出てトイレに向かったのだが、そこで妙案を思いき、トイレのドアでバタンと音を立ててから、コッソリと玄関を出た。


 ピーンポーン


 呼び鈴を鳴らすと、お兄ちゃんの方がドアフォンに応答した。


『あれっ、おばちゃん……』

「ごめんね、遅くなって!お腹空いたでしょう?急いで御飯作るから開けてくれる?」


 お兄ちゃんは、目をパチクリさせて狐につままれたような顔をしている。やがて玄関のドアを開けに来たお兄ちゃんが行った。


「おばちゃん、何やってんの?トイレに行ったんじゃないの?」

「トイレ?おばちゃんは今来たばっかりだけど……え?誰か来てたの?」


 不思議そうなお兄ちゃんの顔から、見る見る血の気が引いていく。リビングへと続くドアの隙間からは弟が顔を覗かせていたが、こちらも青い顔をしている。


 お兄ちゃんは慌ててトイレのドアを開けた。もちろん中には誰もいない。


「えっ……じゃ、さっきの、誰……」

「お兄ちゃん……」


 弟は既に涙目、お兄ちゃんは真っ青を通り越して顔色が真っ白になっている。


 ちょっと、やり過ぎたかな。


 そう思ってニコリと笑い、髪の毛を一房持ち上げながらネタバラシをしてあげることにした。


「ね?だから言ったでしょう?遅くまで起きてると、お化けがでてくるって。おば、毛。なんちゃって」


 けれども、子供たちは既に放心状態。抱き合ったまま、その場に崩れ落ちた。


 もうっ。

 せっかくのオチなのに!


【終】

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