第28話 それはそれ
「あっ、スズメ!」
「ほんとだ、可愛い~!なんか久しぶりに見た気がする」
「確かに。最近見ないもんねー」
すぐ後ろから聞こえる賑やかな声。
女性の3人組のようだ。
その後も、『可愛い、可愛い』とキャッキャと笑っている。
確かに、最近雀の姿を見ることはめっきり減ったな、などど思いながら、目的地へと歩みを早めた。
目的地=待ち合わせ場所。
そこは、色々な食材を供するという、一風変わった店。特に好き嫌いもない上に興味が湧いたため、職場の飲み仲間に誘われた際に即答で参加を表明した。
「おー、来たか!」
飲み仲間は既に店に到着していた。どうやら参加を表明したのは自分だけのようだ。
「まずはさ、メジャーなところから、ワニとかいっとく?」
同意を示しつつ、店内を見回す。
女性客の姿も意外と多かった。
カエル、烏、カンガルー、トドなど、様々食していると、後ろのテーブルから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「わー、ちっちゃい!」
「なんか、可愛い!」
「でも、食べるとこ少なそうだね」
間違いない。
店に来る前に後ろを歩いていた、あの女性三人組だ。
そして、彼女たちが今まさに食べようとしていたのは-
「あー、雀、食べたかった?」
同じく、振り返って後ろのテーブルを見た飲み仲間が言った。
「いや、いい」
「味は悪くはないけど、食べるの大変なんだよな、小さいから」
相変わらず、後ろのテーブルからは『小さい、食べづらい、でもおいしい』と、キャッキャと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
ついさっきまで生きている雀を愛でていた彼女たちが、今は丸焼きになった雀を愛で食している。
それはそれ、これはこれ。
きっと、そういうことなのだろう。
たくましいものだ。
【終】
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