第27話 イヤフォン
最近、Bluetooth対応のワイヤレスイヤフォンが増えている。周りでも、もはやコード付きのイヤフォンを使っている人は殆ど見かけない。
「いいぞー、ワイヤレス。コードが邪魔にならなくて」
既にワイヤレスのイヤフォンを使っている友達もそう勧めてくる。
買い換えようか。
そう思って値段を調べてみたところ、手が届かない金額でもないことがわかった。
それでも、今使っているイヤフォンもまだ使えるし。
なんとなく、コードがないイヤフォンに、心許なさを感じていた。
放課後。
イヤフォンで音楽を聴きながら帰り支度をしていると、突然左耳から音が消えた。
代わりに、ずっと片想いをしている人の可愛らしい声が聴こえてきた。
「ね、何聴いてるの?」
えっ?!
と思った時には、彼女はかなり顔を接近させて、さっきまで左耳に収まっていたイヤフォンを右耳に差し込んでいる。
「あ、あたしもこの曲好き!この間コンサートも行ったんだよ!」
眩しいくらいの彼女の弾ける笑顔が、もはや目に痛いくらいだ。それでも、繋がっているコードのせいで、これ以上は離れることができない。
これは、降って湧いてきたチャンスなのだろうか、それとも拷問なのだろうか。
どちらにしても、心臓が口から飛び出しそうだ。
「そ、そうなんだ?」
「うん!めっちゃ良かったよ!今度一緒に行かない?」
「行きたい、な」
「じゃ、行こ♪」
その後しばらく、彼女と一緒に片耳ずつで音楽を楽しみながら、思った。
もうしばらくは、コードレスイヤフォンはいらないかな。
少なくとも、彼女に想いを伝えるまでは……
【終】
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