第23話 新しい世界

 何故なのかは、全くわからなかった。

 でも、それを欲しがったり身につけたがったりすると、周りの人はみんな、おかしなものでもみるような目つきになったものだ。とりわけ、母親の悲しそうな情けなさそうな顔は、見るだけでこちらまで悲しくなった。だから、幼心にもう既に、それを手に入れることも身につけることも、諦めていた。


 けれども、自立し、自分で働いて稼ぐようになってから、諦めることをやめた。

 何一つ悪いことなんてない。諦める理由がどこにある?


 ショップに入り、憧れ続けていたものをやっと手に入れた。

 本当は、もう少しヒラヒラとして短い方が良かったけれども、初めてということで、長めのフワリとしたものを購入。

 帰宅してすぐに身に着け、姿見に写った自分の姿と対面する。


 初めて目にする、スカートを身に着けた自分の姿。

 その時。

 新しい世界への扉が開いたような気がした。

 明るくて、眩しくて、ちょっぴり照れくさくて、だけど何ひとつ悪いことなんてない、素晴らしい世界。


 もう元には戻れない。


 そう、思った。


【終】

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