第22話 見えない友達

 幼なじみの友人がいる。

 ただ、その友人は、少し変わっている。


 まず、他の人には見えないらしい。

 普通の食べ物には、見向きもしない。

 彼は決まってピンチの時に現れる。

 彼曰くその時こそが、食事の時間なんだとか。


「ねぇ、キミの名前を教えてよ」


 何度もそうお願いしたけど、彼は絶対に名前を教えてはくれない。だから、勝手に名前を付けてやった。


 食い死ん坊、だ。

 彼の主食は、人間の『死』らしい。


「お前みたいにこんなに何度も旨い『死』を提供してくれる提供者なんて、滅多にいないぞ?」


 そう言っていつでも彼は、死にそうになる度に現れては助けてくれる。


 建築中のビルの下を通りかかれば、ちゃんと突き飛ばして上から落ちてくる鉄骨から庇ってくれるし。

 車道を歩いていても、急に突っ込んでくる車にぶつからないように体を引いてくれるし。

 通り魔に襲われた時も、ちゃんと急所から刃物が外れて軽い傷で済むように調整してくれる。


『死』を食べられた人間は、その瞬間の死から逃れられる。つまり、生き続けられる。

 よく言う『悪運の強い人』には、大抵の場合、彼のような『食い死ん坊』がついているらしい。


 でも、このままもし『死』を食べ続けられてしまったら、もしかして『不死』になるってことなのかな?


 そんな不安を覚えたこともあったけれど、彼は笑って否定した。


「俺だってそんなに無限に食えるわけじゃないぞ?腹がいっぱいになったらもう、食えないからな」


 そういう彼の腹は、今のところはまだ八分目にもなっていないようだが、スリムとは言えないほどには丸く見える。


「いつも守ってくれてありがとう」

「別に守ってるわけじゃねえよ。食事だ、食事」

「それでも、ありがとう。キミは命の恩人だし、大事な友達だよ」

「『提供者』が『友達』ねぇ……」

「うん。これからもよろしくね」

「……あぁ」


 右手を差し出すと、彼は面倒くさそうな顔をしながらも、握手を交わしてくれた。

 そういうわけで、彼は少し変わった幼なじみの友人だ。


 あなたがもし悪運の強い人だったら、あなたにも『食い死ん坊』が憑いていて、『死』を食べてくれているのかもしれない。

 ただ、目には見えないだけで。


【終】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る