第20話 夕陽

 魂が引き込まれてしまいそうな。

 何処へでも連れて行ってくれそうな。

 眩いばかりの夕陽に照らされた、帰路の途中。


 足を止めて眺めていると、ふと、隣に人の気配を感じた。

 同じように夕日に心をうばわれて立ち止まっている人だろうと思っていると、急にその姿が消えた。


 それはまるで、夕陽に吸い込まれてしまったかのように。


 きっと疲れているのだろうと軽く頭を振ると、今度は反対側の隣に突然違う人が現れた。

 その人は、軽く夕日に向かって一礼すると、何事もなかったかのようにその場を立ち去って行く。


 もしかして、今は特別な何かが起こる時間なのだろうか。


 そんなことを思いながら、何処かへ連れて行ってほしいと強く願う。

 と。

 わずかに体が浮いたような気がしたが……残念ながらすぐにもとに戻ってしまった。


 時間切れだろうか。

 それとも、自分にはその資格が無かったのだろうか。

 お前はまだここで頑張れ、と。


 気づけば夕陽も既に半分以上を地面に隠されてしまっている。

 ならば、まだここで頑張ってみようかと、夕陽の残り日に背中を押されながら、再び帰路に着いた。


【終】

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