第17話 唇

「もうそろそろ、マスクは外しても大丈夫だよ。だから、ね?外そう?」


 そう言いながら、そっと彼女のマスクを外す。どこか恥じらっているようにも見えるが、彼女は頬を染めたまま大人しくじっとしている。

 ゆっくりとマスクを取り去ると、マスクの下から現れた可愛らしい唇は以前と何ら変わること無くふっくらとしていて、目を引くような健康的なピンク色で彩られている。


 その、久し振りに目にした彼女の口元に、ハッとした。

 彼女の魅力を再確認したかのように、胸がキュッと締め付けられ、同時に鼓動が激しさを増す。


 口づけたい、口づけたい、口づけたい、口づけたい……


 視線を彼女の口元から反らすことができない。頭の中は、彼女と交わす淫らな口づけの妄想で溢れそうだ。


 いけない、このままではどうにかなってしまう。

 いや。

 彼女をどうにかしてしまう。


 慌てて再び彼女にマスクを付けさせる。


「ごめんね、心の準備がまだできてなかったよ。マスクを取るのはもうちょっと先にしようか」


 ドキドキする胸を押さえながら、マスク姿の彼女に微笑む。すると、彼女も恥ずかしそうに微笑んだように見えた。


 等身大の、推しキャラの彼女のフィギュア。

 唯一無二の、愛しい恋人。

 待っててね。

 心の準備ができたらすぐにでも、マスクを取ってあげるから。

 そうしたらまずは、軽いキスから交わそうね。

 啄むような、軽いキスから……


【終】

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