第15話 扉
会社に行こうと玄関へ向かうと、突然、玄関の手前にもう一つ扉が現れた。
その扉を避けて玄関のドアから外に出ることももちろんできたのだが、とにかく気になる。
もしやこれは、かの国民的アニメに登場する『どこ●もドア』ではなかろうか。
そんな思いが膨らみ、少しばかり扉の前で待ってみたのだが、誰かがでてくる気配は一向に無い。ではこちらから向かってみるかと、ものは試しに
「海!」
と口にして扉を開いた。
とたんに海中に放り出された感じがした。
海面など見えないくらいの、深い海中。もちろん、呼吸などできない。苦しさにジタバタしていると、背後に殺気を感じ、振り返った先に見たものに背筋が凍った。
サメが大口を明けて近づいてきていたのだ。
もうダメだと思った瞬間、目の前にまたあの扉が現れた。
「空!」
とっさに叫んで扉の中へと飛び込む。
間一髪でサメからは逃れられた。
ところが、扉の先は本当に「空」。重力に逆らうことなどもちろんできるはずもなく、ものすごいスピードで体は落下を続けている。早すぎて、息さえできない。
もうダメだと思った瞬間、目の前にまたあの扉が現れた。
「地面の上!」
思わずそう叫んで、体当たりのような感じで扉の中に飛び込むと、気づけば地面の上に横たわっていた。
そこは、見たことの無い場所。
おまけに、地面の他には見渡す限り何もない。いくらか周囲を歩いてみたものの、人の姿はおろか、動物も虫も、草のひとつさえ見つけることができなかった。
やがて、疲れ果てて座り込んだ目の前に、またあの扉が現れた。
もう帰りたい。
そう思い、
「家」
と言いながら扉を開ける。
すると、そこは見覚えのない部屋の中。
まごつく間もなく、その家の住人と思われる人が部屋の中に入ってきて、鉢合わせてしまった。
まずいっ!
焦った途端に、また目の前にあの扉が。
「自分の部屋!」
叫びながら大急ぎで、扉の中へと飛び込んだ。
やっと自分の家へ戻ってこられたものの、全身ずぶ濡れな上に泥だらけ。加えて、会社に行くために家を出る時間はとっくに過ぎている。
会社に連絡を入れ、休暇を取ることにした。
きっと、疲れているんだ。
だからこんな、おかしな幻覚を見たんだ。そうに違いない。少し休もう。
そう考えて休む支度をしている目の前に、またあの扉が現れた。
少し迷った挙げ句、工具箱から瞬間接着を取り出し、扉の縁にぐるりと塗り込む。
すると。
扉は跡形もなく消えた。
【終】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます