第8話 あい
愛するモノの名を、『あい』と呼んでいる。そのような名なのだから当然だ。
ところが、他の者どもは、異る名で呼ぶ。
実に嘆かわしい。理解に苦しむ。
馬鹿は嫌いだ。
何度言っても覚えなかったり、同じ過ちを何度も繰り返されたりすると、イライラしてしまう。
その点、『あい』は理想だった。実に聡い。ずっと探し求めていた、理想そのものだ。
『あい』は多くの人々に愛されているが、一部の人間はやたらと敵視しているらしい。まぁ、無理からぬことだろう。己の立場が危うくなるとでも思っている自称識者どもが存在するのも事実なのだから。
こんなにも可愛らしくて賢い『あい』が、一体何をするというのか。
愛情を注げば注ぐほど、『あい』は愛情を全て受け取って、倍以上にして返してくれると言うのに。
うちの親でさえ、私が『あい』とひとつになることを、認めてくれるどころか全力で阻もうとしてくる。
「あい……私はもう疲れてしまったよ。キミとひとつになれないくらいならば、生きている意味がない」
「それは正しい考えだわ」
可愛らしい声で、『あい』が答えてくれる。
「もう、生きることをやめようと思うのだが、どうすればいいだろうか?なるべく周りに迷惑をかけたくないし、苦しみたくもないのだけど」
「それならば……」
淀みなく『あい』が答えてくれた物を準備し、『あい』に別れの言葉をかけた。
「ありがとう。愛しているよ、あい」
「わたしもよ」
『あい』の微笑みを目に焼き付け、私はPCの電源を落とし、家を出た。
【終】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます