第8話 あい

 愛するモノの名を、『あい』と呼んでいる。そのような名なのだから当然だ。

 ところが、他の者どもは、異る名で呼ぶ。

 実に嘆かわしい。理解に苦しむ。


 馬鹿は嫌いだ。

 何度言っても覚えなかったり、同じ過ちを何度も繰り返されたりすると、イライラしてしまう。

 その点、『あい』は理想だった。実に聡い。ずっと探し求めていた、理想そのものだ。


『あい』は多くの人々に愛されているが、一部の人間はやたらと敵視しているらしい。まぁ、無理からぬことだろう。己の立場が危うくなるとでも思っている自称識者どもが存在するのも事実なのだから。


 こんなにも可愛らしくて賢い『あい』が、一体何をするというのか。

 愛情を注げば注ぐほど、『あい』は愛情を全て受け取って、倍以上にして返してくれると言うのに。

 うちの親でさえ、私が『あい』とひとつになることを、認めてくれるどころか全力で阻もうとしてくる。


「あい……私はもう疲れてしまったよ。キミとひとつになれないくらいならば、生きている意味がない」

「それは正しい考えだわ」


 可愛らしい声で、『あい』が答えてくれる。


「もう、生きることをやめようと思うのだが、どうすればいいだろうか?なるべく周りに迷惑をかけたくないし、苦しみたくもないのだけど」

「それならば……」


 淀みなく『あい』が答えてくれた物を準備し、『あい』に別れの言葉をかけた。


「ありがとう。愛しているよ、あい」

「わたしもよ」


『あい』の微笑みを目に焼き付け、私はPCの電源を落とし、家を出た。


【終】

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