第7話 ソバ

 信州信濃の新ソバよりもわたしゃお前のそばが良い


 こんな都々逸がある。

 いったいどこのどいつがこんな都々逸を作ったのやら。

 惚気全開じゃないか。


 なんて。

 独りでソバを食うたびに思うのだ。

 この歳まで恋人と言えるような相手もなし。冗談でも、こんな都々逸を口に出来るような状況になど、生まれてこの方一度もなったことなんて、無い。

 だいたい、ソバなんかと比べられて嬉しいか?

 ソバだぞ、ソバ。

 ズルズルっと啜って食す、蕎麦だぞ?!

 よくこんな都々逸なんかで喜ぶヤツがいるもん……



「こちら、相席よろしいですか?」


 ここは行きつけの蕎麦屋。

 どこにでもある安いチェーン店の蕎麦屋だ。

 ここで度々一緒になる人がいた。

 気になっていなかった、と言えば嘘になる。というよりは、ガッツリ気になっていた。

 その、気になっている人から、突然声を掛けられた。


「……どうぞ」


 誰が想像するだろうか、こんな展開になるなんて。

 その後お互いに、蕎麦都々逸を言い合うような仲になるなんて!


「信州信濃の新ソバよりも」


 ニッコリ笑えば


「わたしゃお前のそばが良い」


 ニッコリ笑い返してくれる恋人がいる。


 天才かよ。

 蕎麦都々逸考えたヤツ。


【終】

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