絆の風景 10/乱入者
御堂、山崎、柳田たちは、巨石の上で静かに倫道の戦いを見守っていた。
「……かなり実力をつけた様だな」
山崎が感心した様にポツリとこぼす。
眼下で10メートルを越すムカデ型の妖魔『
「あの硬い外皮に猛毒の牙と死角から飛んでくる尾の毒針は厄介ですからね。……実際、自分の目で見ても、あのひよっこがここまでになるとは……」
「そうだな。アルカナ・シャドウズとの戦いで実戦を経験したとはいえ落ち着いた戦い。別人のようだ……」
柳田と山崎は彼の師匠とも呼べるデルグレーネへ視線を向ける。
彼女は至って冷静に、戦いの様子を当然ともいうべき表情で眺めていた。
「やるわね倫道。『
カタリーナもデルグレーネの肩に手を乗せ、彼女の仕事ぶりに賛辞を送る。
しかし、彼女は金色に輝く髪をふわりと揺らし、頭を振った。
「ううん、強くなったのは倫道が必死で努力したから。毎日、ひどい怪我を負いながらも寝る間も惜しんで、魔力の制御に励んでいた結果……」
「そっか…… うん、そうだね」
カタリーナは、肩に添えた手へ軽く力を入れて、彼女の横顔から眼下で戦う倫道へ視線を移した。
毒噴尾の怒涛の攻撃に対し、倫道は驚異的な速さで対応していく。
彼の魔力は戦いにつれて増す一方で、やがて劇的な魔力の拡散を始める。同時に彼の左目が黄金色に輝き始めた。
「これは…… 報告にあった覚醒か!」
山崎が驚愕の声を上げる。
話には聞いていた。神室倫道が持つ内に秘めた力。しかし、そんな魔道兵は今までも見たためしが無かったので、半信半疑ではあったのだ。
「どうですかヤマさん。あの魔力の上昇……」
「ああ、驚くべき事だな。実際に見てみないと信じられなかった」
「まあ、俺もっすよ。レーネさんとの特訓を覗き見た時に初めて目にして…… 目ん玉が飛び出るほど驚きましたよ。おっと――」
柳田の言葉に応える様に、倫道の動きは一層鋭くなり、毒噴尾の巨大な尾を一閃で切断した。
「おおおお!」
「倫道……」
「凄い!」
後方で観戦している久重たちも感嘆の声を上げる。
致命的な一撃を受けて身悶えする毒噴尾。荒れ狂う巨体に対して落ち着いた様子で太刀を構える。
誰もが倫道の勝利を確信したその時――
「なにか…… 来る――⁈」
デルグレーネが上空に視線を向けて叫ぶ。
ほぼ遅れず御堂、山崎、柳田とカタリーナは、突如として起こった空間の異変に気づいた。
空気が震え、結界が不穏なリズムでの鼓動を打ち始め、空間の歪む感覚が走った。
瞬間的に空が暗転し、上空から脅威的な力が結界を突き破り、戦闘場に厄災が降り注いだのだ。
「――うぉおおおお」
「うぁ⁈――」
「きゃぁああ⁈」
「なっ、なんだ――」
突如の妖魔の出現に、周囲は一瞬の静寂に包まれた。
しかしその静けさは長くは続かなかった。
突如として現れた妖魔は凄まじい勢いで小屋を吹き飛ばし、その
灰色に輝く巨大な体を震わせると、その衝撃で地面が裂け、周囲の木々が揺れ動く。
衝撃波で舞い上がった土煙がはれて、その正体に多くの者が気がついた。
「あ、あれは……」
「まさか…… グライトウィング⁈」
妖魔の正体、石翼の妖魔『岩羽斬』、国際呼称『グライトウィング』であった。
この突然の展開に、試練を見守っていた山崎や柳田たちは驚愕しながらも臨戦対応となる。
彼らは即座に状況を把握しようとしたが、妖魔の圧倒的な存在感に圧されていた。
「倫道――」
危険を感じたデルグレーネは、彼らを助けるために動く―― が、彼女は肩を掴まれ動きを止める。
「――⁈」
長い金髪が顔一杯にかかる。髪を振り乱すほど大きく頭を振り、自分を止めた人物へ振り向くと、そこには険しい表情をした御堂の顔があった。
「待ちたまえ」
肩を掴む手に恐ろしいほどの力を入れて御堂が首を横に振る。
「何を言って…… あれは今の倫道達に倒せる魔物じゃない!」
金色の瞳を吊り上げ、御堂の鋭い視線を睨み返す。
そこに、山崎も同意した。
「試験は中止しましょう! あの妖魔は危険すぎます!」
御堂への提言など、通常の山崎であれば口にする事は無い。しかし、それでも言わなければいけない。そんな相手であった。
だが、御堂は山崎へ一瞥を返すと、戦闘場にいる2人の若者に向かって大声で命令を下す。
「神室! 安倍! お前たち2人で目の前にいる妖魔、岩羽斬を倒してみせろ!」
「なっ――⁈」
「司令⁈」
思いがけぬ命令にデルグレーネはおろか、山崎や柳田、更には五十鈴たちも驚きを隠せない。
「ふざけないで! 私は行く――」
「待てと言っている」
御堂の言動に信じられないといった表情で
しかし、一層力のこもった御堂の手に動きが止まる。
「ちょっ――」
感じるのは魔力。
デルグレーネは、いつの間にか御堂の発動した拘束魔法により、1ミリも体を動かすことが出来ないでいた。
(いつの間に…… それにこの魔法は……)
瞠目し改めて御堂の顔を覗き込む。
そこには殺気を含んだ彼女の視線を平然として真っ向から受ける彼の顔があった。
「お考えが…… あるのですよね?」
空気が震えるほどの魔力のぶつかり合いに、カタリーナがデルグレーネと御堂の間に割り込むとお互いを落ち着かせる様に静かに問う。
落ち着かせるのはデルグレーネがメインであるが。
「まあ、せっかく舞台が整っているのだ。彼ら若者の戦いを見守ろうではないか」
「司令! お言葉ですが、岩羽斬は奴らの手には余ります! ここは、俺たちが――」
柳田の言葉を視線だけで遮る。
「戦場では丁度良い相手など選んではいられない。そんな事は分かっている筈だ」
「そっ、そりゃぁそうなんですが……」
「それに、私にはそれほど無謀な戦いには思えないがな」
御堂の言葉に、一堂が驚愕した。
そして、改めて強大な力を持つ妖魔と倫道、清十郎を見つめる。
「まあ、危なくなったら私が彼らを守ると約束しよう」
口元を緩め、御堂が宣言をする。自分が倫道と清十郎を守ると。
その言葉は、帝国最高の魔道兵の一人でもある御堂から発せられた。この意味する所を山崎たちは理解する。
「……承知しました」
「司令がそこまで言うのなら。了解っす……」
部下の了承に軽く頷くと、御堂はカタリーナとデルグレーネへ視線を移す。
「そういう訳ですから、どうぞ静観してもらえますか」
「ええ、司令の命令、承知しました。ね、レーネ」
「…………」
未だデルグレーネは御堂へ鋭い視線を飛ばしているが、既に彼女の拘束は解かれている。
それを踏まえ、彼の提案を渋々ながら受け入れた。
「……見過ごせない状況になったら私は止めに入る」
そう告げるとプイッと横を向き、自分達がいる巨石の一番先端まで歩いていく。
それに続くカタリーナは御堂と視線を交わし、軽く頷いた。
御堂の意志を汲んで、デルグレーネは任せろと視線で会話する。
「さて……」
御堂は壊れた結界の上から新しい結界魔法を張る。
これにはカタリーナとデルグレーネも多少驚かされた。
「なるほど…… 確か防御系の魔法が得意とは聞いていたけど…… 御堂はマスタークラスの魔法士みたいね」
「……うん」
新たに展開した強固な結界、その実力を認め、彼の発言に信憑性がもたらされた。
「さて、本当の実力を見せてもらおうか……」
御堂は誰にも聞こえない様な小声で呟くと、眼下にいる若者たちへ鋭い視線と期待を投げかけるのであった。
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