第九輪ー推理
結局のところ、一番の情報を握っているのはアンだということで、改めてアンに話を聞くことになった。
精霊や魔法の話なら私やキディの方が詳しいことは分かっていたが、あいにく二人とも悪魔には興味が無い。ということで、もう一人協力者を増やした。それがシュベルだった。
キディは何故か女装姿の方でシュベルを迎えに行ったらしい。同じクラスだし、そっちの方が早いと思って、と話していたが、おかげで初めの方の話がグダグダだった。まあ、その分得られた情報もあったが。
たとえば、土地精霊は実は視認しようとしなければ見えない。キディの前世が土地精霊であったために、その性質が軽く受け継がれてしまったのだろうということだった。
まあ、話の内容は正直なところどうでもいい。問題はこの後だった。
話し合いもちょうど一段落─とまでは行かない、それでもまあまあいい所まで進めた時の事だった。警報機の音が鳴り響いたのだ。
音の出処は、キディが持っていたペンダント。そのペンダントは国家騎士団の証のようなもので、通信機能なども備わっていた。要は魔道具のひとつだ。その時はどうやら上から連絡が来たために、音が鳴ったらしかった。
肝心の内容はと言えば、魔物襲来だ。
ホフバにて魔物襲来があったことへの応援要請だった。場は相当ざわついたと記憶している。魔物襲来など生まれてこの方経験などしたこともなかったし、ここ数十年でどこかで魔物襲来があったと聞いたこともなかった。
全員が頭をよぎったことだろう。
悪魔だ。悪魔が来た、と。
事実、悪魔のせいだった。もっと言うなら、悪魔契約者のせいであった。
キディに来た要請ではあったが、嫌な予感がして私も参加した。私は騎士団でも無ければ魔術団にも入っていないが、渡り合えるだけの力があると信じていた。
少しだけ状況を話すが、辿り着いた時にはそれはもう酷い有様だった。血肉の匂いが立ち込め、辺りは赤黒い血が無惨に飛び散っている。そのままにされた死体もあれば、恐らく魔物、それも虫タイプの魔物に喰われたろう肉塊もあった。
おぞましい、その言葉以外には言い表しようのないほどの悲惨な光景。まだ息のある人に光魔法はかけたが、それでも外にいる全員を救うことは無理だと早い段階で悟った。
魔法で人を癒すことは出来ても、生き返らせることはできないのだ。精霊ならできるものはいるらしいが、できる精霊を見つけるなど至難の業である。キディがその類でない事は既に判明していたし、私にキディ以外の精霊の知り合いなどいないためだ。キディはキディで土地精霊はその土地から動けないため、他の土地精霊の情報は皆無に近いらしい。
私たちは早々に二手に別れた。魔物襲来の時点で精霊が魔物側についていないことは判明していたため、キディを一人にしたとてなんの問題もないと思ったからだ。私は魔法で追い詰め、広範囲魔法で仕留め損ねた魔物をキディが狩る。あれだけ多くの魔物を相手したことは当然なかったため、行き当たりばったりではあったが、どうやら成功したようだった。
ここで一つ出来れば使う場面は少ない方がいい豆知識を入れておこう。魔法自体は基本全員が全属性を一応所持していると書いた。つまりは、適性はなくとも使えはするということだ。
ということで、皆様には雷魔法と水魔法は是非最小限だけ使えるようになっていただきたい。それぞれ単体だと本当に静電気レベル、水滴レベルの効果しか及ぼさないが、組み合わさるととてつもない威力を発揮するのである。
さて、話を戻して。結果を言うと、二人でホフバの襲来はおさめた。そう、二人で、である。
他の人は?という指摘はもっともだ。事実、私もそうキディに問いかけた。返事としては、
「さぁ?他のところでも魔物襲来あったらしいし、そっちにいるんじゃないの?」
という、なんとも呑気なものである。
この楽観的思考は昔からだが、この時ばかりは流石にいやいやいや、と苦言を呈したくなった。
いくらキディが実力者だからといって、実力者一人に街ひとつを任せるんじゃあない。
これに尽きる。
まあ、仕事でキディが私といることは上も分かっていたろうし、そう考えると私がついてくることも想像はしていたのだろうが、そんなことをわざわざこっちが察して国をフォローしてやる理由もないのである。
実際私がじゃあ頑張ってくれと送り出していたらと考えると鳥肌が立つ。キディならどうにかしてしまえるのだろうという考えもないことはないが、私自身特に何もする予定のないキディに「テオなら一人でも行けるでしょ」と言われるとイラッとすると思う。キディはそんなこと言わないので、分からないが。
それと、キディは恐らく私が「キディなら一人で行ける」と送り出したところで怒りはしないだろう。「紅茶だけよろしく」とは言うだろうが。
そう。キディは大の紅茶好きなのである。詳しいわけではないので語り合いはできないが、純粋にプレゼントしやすい。……私が無知すぎて語り合いできないだけかもしれない。
国への不信感が再び募ったところで、また私たち四人は集まることとなった。といっても翌日なんてものではなく、一週間ほど空いていた気はするが。
私とキディの収穫はゼロに近かった。私は論文で審査等があり全く予定に空きがなく、キディは魔物襲来の事後処理で毎日フルタイムで働いていた。
本業を捨ておいて捜査には勤しめないのである。残念ながら。
しかしながら、ここでアンから有力な情報があった。シレーネと悪魔が会話しているのを見たらしいのだ。
もちろん、身内の証言であることや、アン自体シレーネに恨みを持っていることから見ても百パーセント黒だと言い切ってしまうのは難しかった。
そこで、シュベルだ。シュベルが追加で、シレーネが無理やり封鎖された現場に押し入ったという証言を聞いたのである。その証言者は、シレーネの取り巻きのマルゲンだと言う。
これは推理小説では無いので、細かい事件のあらましは書かないが、既にそれまでにもシレーネが最有力容疑者として上がっていた。
追い詰める準備も全て、出来ていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます