第五輪ーキディについて

 話は変わるが、私が一周目において功績を挙げたのは、まさに中等部生の頃の話である。魔法というものはお金がかからないもので、論文を書くにしたってほかの分野よりもはるかにコストが少ないのだ。これが魔道具の開発となるとまた話は変わって来るのだが、私の研究は基本ローコストで行われていると思っていい。


 いい、が。根本的なところで金銭が必要になる。土地だ。


 私は魔法学と言っても理論分野の研究者ではない。魔法が放たれる理論自体は把握こそしているが、興味は大してない。理論的な話で行くならキディやシュベルの方が私の何倍も詳しいだろう。


 私が研究しているのは、合成魔法だ。二種類以上の属性を組み合わせて同時撃ちする魔法と言ってもいい。要は完全に実技専門なのである。


 狭い部屋でとてつもない威力の魔法を撃ったらどうなるか、というのは説明するまでもないだろう。部屋が崩壊する。部屋で済めばまだいい方かもしれない。


 貴族なら土地くらいあるのではないかという疑問は最もだ。最もなのだが、家はそこまで裕福じゃない。そんなお金があるなら私がギルドで稼いだお金は生活費に回されやしないのだ。


 というわけで、私は若干の焦りを覚えつつも、何も出来ずにいた。試したい魔法は沢山あるものの、試せないのでは話が進まない。文献は図書館に行けばいくらでもあるが、土地はそうも行かない。もし借りれたとしても、万が一を考えれば軽率なことはできない。


 というので躓いていたのだが、思わぬ所で支援があった。キディがギルドで貯めたお金を援助金としてくれたのである。キディは研究なんかには興味がなさげであったから、恐らく何にお金が必要だったのかさえ知らなかったろうが、なんにしろ助かったことに違いはない。

 なかなかの巨額援助だったためさすがに一度断りはしたが、「え、でも僕物欲ないしこんなにお金いらないよ?」という奇妙な押し付けられかたをしてしまった。元からそのつもりで稼いでいたらしいが、馬鹿なのか。


 けれども、一周目の中等部時代は、二周目含め一番キディとの関わりがなかった時期とも言える。クラスが違ったこともあるし、私はシュベルやバルディオ、ヘリアンス王陛下とよくつるんでいた。仲が悪かったのかというとそうでもなく、キディは気まぐれに私の研究所に来ては、ベッドを我が物顔で占領して爆睡していた。


 研究所そのものは特に必要はなかったが、家でやると父や母に何を言われるかが分からないため借りていた。もちろん、キディの援助資金で、である。そのためキディが研究所に居座る分には特に気にしていなかった。キディも恐らく家にいたくなかったのだろうし。


 というのも、キディには兄と姉がいるのだが、兄とは相当仲が悪かったらしい。姉は可愛がってくれたそうなのだが、当時の第一王子の婚約者となってから、どうやら距離を置き始めたようだった。王妃教育で疲れ果てている姉を気遣ったのだろう。


 キディは基本人を憎まず恨まずと言った点では心が広かったが、反面寂しがりでもあった。私に会いに来たとていつも眠っていたが、それがある意味彼にとって落ち着くものであったのかもしれない。起こしてくれる人がいるというのは、案外人に安心感をもたらすものである。

 なお、キディは早起きのくせして寝起きが最悪だったので基本起こしはしなかったのだが。


 その頃にはキディも国主催の大会に出て、一位をとれるまでになっていた。暴れ馬は触れないでおいたことに越したことはない、というわけだ。


 少し大会関係の話を掘り下げようかと思う。今でこそ大抵の大会の参加可能な年齢は吊り上げられたが、当時は十二歳以上の男なら参加が可能だった。今とは違い貴族しか国家騎士団に入団できなかったため、言ってしまえば平民でも強力な魔法を使えると入れる国家魔術団や、ほぼ世襲制で成り立っている政府とは違い、人数が足りていなかったのである。大抵の貴族は魔術師や文官、研究者になることも理由の一つだ。

 これは今の私の予想でしかないのだが、当時騎士団は、上の言う事が全てであった。その上というのが私の父なのがなんともやるせないが、練習量といい、配属先といい、給料といい、とにかく割に合わなかったのである。上の機嫌を損ねれば僻地に飛ばされ、王宮騎士なんかはもはや実力というよりも媚びで勝ち取っていた。大抵の実力者はそれを嫌って、王宮への配属を嫌ったため、余計に王宮付近の防衛は手薄になっていた。その事は革命から見ても皆様の想像に容易いと思う。

 そういうこともあって、騎士団はとにかく実力者を欲しがった。


 キディには耳の痛い話かもしれないが、火や雷を操れる世界において、剣術とはスポーツとしての意義以外はあまりない。キディはある種人外的才能を持っていたから魔法相手にも対等に渡り合えたのであって、普通、大なり小なり魔法がないと戦闘には向かない。

 つまりは、騎士団が存在する意味自体が実はあまりないのである。


 確かに、風魔法や土魔法、光魔法といった、戦闘には少し不向きな属性所持者もいるため、そういう人たちが騎士団に入るのも頷けはする。

 しかしながら、魔術団と言えども剣を持つな、という制約はないどころか、むしろ何かしらの武器を持つことを推奨されているのである。


 対して騎士団はあまり魔法を用いることをあまり良しとしていない。キディの功績故なのかもしれないが、はっきり言って維持費の無駄である。合併して魔術騎士団にしたらいいものを、なにをこだわっているのだろうか。


 話を戻そう。人員の不足を恐れた騎士団は、人材を見つけるために大会を開いた。そこから何人かに目をつけ、スカウトしていたのである。今となっては高等部卒業が当たり前となったが、中等部卒業後即騎士団、あるいは魔術団に就職する人もいたその当時では、中等部生の中から見つけ出すのもそう珍しい話ではなかった。


 騎士団は年に二回大会を開いた。春は剣での実力を競い、秋は槍での実力を競った。キディはどちらも得意で、春秋両方とも出場して優勝をかっさらっていた。持ち武器は剣だったが。


 余談だが、私は剣の方には出場していた。自分で言うのもなんだが、腐っても騎士団長の息子である。三年連続で準決勝でキディに負けた。三位争いでは一年目は負け、二年目、三年目では勝った。

 準決勝で当たらなければ準優勝できたのかどうかは、未だ謎である。トーナメント制の競技は、運も味方につけなければ上位に入るのはむずかしい。

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