第三輪ー初等部時代の話

 初等部時代の話など正直いって大した話はない─と言いたいのだが、案外そうでも無いのがキディの面白いところである。


 キディは存在感がとにかく薄いのかなんなのか知らないが、クラスの中でも浮いた存在であった。話しかけても無視されるようなことなどざらで、その度に面倒くさそうに私によろしく、と仕事を押し付けてきたのだ。その強かさは褒めるべきなのかなんなのか、私にはよく分からない。


 しかしなにもずっとそうだったか、と問われるとそうでは無い。体育の授業の時だけは、キディはいつもヒーローだった。なんの競技をやらせても九十点、百点、百二十点をたたき出してくるキディを、皆がチームに入れたがった。本人も身体を動かすことをとかく好んだため、体育の授業が一番のお気に入りだったそうだ。単に座学が嫌いなだけだろう、とも言えるが。


 私も割と運動神経はいい方だったため、キディと同じチームになったことは無い。つまりは、体育で勝った記憶が一切ない。


 他にあるキディの運動好きのエピソードとしては、しょっちゅう帰りに私の家に寄ってはチャンバラをしていたことが挙げられるだろうか。私を慰める時のみに限らず、何かと理由をつけてはチャンバラをしたがっていた。

 弟には大分手加減してやっていたが、私に対してはなんの容赦もなかったため、案の定私は全戦全敗である。その分負けず嫌いに火がついて、騎士としての能力を底上げできたため、感謝したらいいのか、なんなのか。未だにチャンバラしようと新聞紙を持って家に突撃してくるため、私はありがたいことに健康体を保てている。


 キディは八歳になった段階で、冒険者ギルドに通い始めた。私も魔法を使うチャンスだと囁かれて散々連れ回された。


※冒険者ギルド 主に魔物討伐や素材集めなどの依頼を受ける場所。今は法が改定され、満十五歳以上の人しか登録、利用ができない。


 キディは高価ながらに殺生を行わずとも取れる素材を獲得するのを好んでいた。曰く、


「魔物のテリトリーにお邪魔しているのはこっちなのに殺す意味が分からない」


 だそうだ。

 実際私もキディもギルドの依頼で殺した魔物の数は十にも満たない。


 どのようにしていたのかと言うと、交渉である。キディは当然のように魔物と談笑を初めて、お願いがあるんだけど、と目的の物を貰っていた。あれを無邪気と呼んでいいのかは甚だ疑問だが、ある種子どもらしい奇想天外な発想である……か?


 私はと言えば、光魔法をかけたりなど、魔法関連でできることを色々していた。冒険者ギルド以外にもギルドに登録をして、魔法で貢献出来ることには片っ端から手を出した。一周目で何をしたかはあまり覚えていないのが残念だ。


※光魔法 回復魔法の別称。回復魔法をかけている際、眩い光が放たれることから一部の間ではそう呼ばれる。


 書き忘れていたが、当時ヘルキャット家はなかなかの貧乏であった。というのも、父にも母にも散財癖があったのである。当時私が稼いだお金も、大概は家の維持費等にあてられることとなっていた。そんな馬鹿な。


 というわけで、生活にやや切羽詰まっていたのは否定できない。

 しかしだからといって平民から高額の報酬を得る訳にも行くまいと、妥協した結果が名を広めてくれ、である。聖女、では無いが、そういった類で名が広まれば王宮からの依頼がきて、報酬が舞い込む、という算段だった。頭がいいのか悪いのか分からない。

 キディは私の判断を酷く気に入っていたようだったが。


 実は、そのときに光魔法を使用できない人のための薬草を開発した。さすがに全国を回って治療するのは骨が折れると察したのだ。結果、レシピをギルドに売り、その薬草の売上の十パーセントを頂くことにした。

 今現在売られている薬草は、その元の薬草に何度も改良を重ねて作り上げたものである。


※今現在売られている薬草 アケビとヨモギを混ぜ合わせたもの。止血効果、鎮痛効果、消炎効果がある。


 その薬草の改良に携わってくれたのがシュベルである。シュベルは生き物全般への造詣が深いことで貴族の間では有名だが、植物の面においても、専門とまでは行かないが大層優れていた。しかしながら私もシュベルもその道に進んだ訳では無いため、まだ改良のできる余地があるのであれば、どうか医学か植物学専攻の方にお願いしたいものである。


 ちなみに、このシュベルという男もなかなかの変人である。キディとは違い滅多に人に姿を見せないため知られていないが、あれはまさに蛇だ。シュベルの目が開いているところなど、一周目と二周目を合わせても二度しかない。そのくせ語尾のカタコト感といったら、違和感しかない。語尾がカタコトなのは多言語話者故なのだろう……と、都合のいい解釈をしてあげているのだが。

 とはいえ彼は理知的な人であるし、キディとはまた違ったタイプの精神が成熟している人であるから、私の良い友人であることには違いない。


 今改めて振り返って気付くのは、私が天狗にならずに済んだのは間違いなくキディやシュベルがそばにいたからであろうと思う。凄いのは何も自分だけではないと早めに気づけたのは自分にとって幸運だったのではなかろうか。

 加えて二人は私とは畑違いだった。似たようなところには位置しているが、それぞれ目指すべき場所は明確に異なっていたため、自信を失うことも無く、かといって調子に乗るようなことも無く成長出来たことには感謝しかない。


 閑話休題。キディが剣技において得意としていることは急所一点刺しであることは有名であると思うが、既に初等部時点でその技を確立していた。どれだけ巨体な魔物相手だろうと、本人は飛べば届くというなんとも賞賛しがたい発想で行っていた。途中からは私が魔法を打ち込んだ方が早いことに気がついていたが。


 私が魔法の中で雷電魔法を得意とするようになったのもこの辺りからである。雷電魔法とは雷魔法と水魔法を組み合わせたもので、水に濡れていると雷が落ちた時より強い効力を発揮することを利用した魔法である。細かい発動条件は過去の私の論文に乗っているためそちらで確認していただきたい。


※過去の私の論文 『合成魔法の撃ち方と原理について』(××14年)


 兎にも角にも、戦闘の基礎自体はもう既にその頃から出来上がっていた。ギルドでは魔物はあまり倒していないと言ったが、それ以外だと魔物を相手にすることが多かったのだ。

 魔物もなにもみんながみんな知能を持っている訳ではなく、時折街に降りてきていることはご存知だろう。その辺の対処をよくやっていた。初等部生で?という疑問は最もであるが、魔法はある程度遠くの距離からでも届くため、自身の安全性は一定で保証されていた。


 キディはキディで、超越した身体能力で敵の攻撃を躱して隙をついて攻撃していたようである。

「早いうちから経験積まないと」らしいが、これを読んだ子ども達はどうか真似をしないで欲しい。あれはキディにしかできない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る