第7話 君と一緒に見た空

2月。月日というのはあっという間に過ぎていた。でも受験なんて到底できるものじゃなかった。私はまたベッドの上に居た。そうだ、着実に私の身体はだめになっていっていた。脚がずっと痺れていて思うように動かせない。まだ手の感覚が残っているだけましだと言えるほうだ。おかげで病室からでもカーテンの隙間から空の写真を撮ることだけは欠かさず続けられている。あの6月19日から撮りためた写真は300枚にものぼっていた。どれも大事な思い出の空。私の海馬に大事に取ってある。もうあの人にもしばらく会えていない。元気しているといいけど。あの人はいい人だから上手くやっているんだ。コンコン。やたら控えめなノック音がした。はい、どうぞと返事したら、エスパーの如くそらが静かに入ってきた。ここの病院を教えたはずはないのになんで。ちょっとだけ恐怖心もあったが、この人のことだ、きっと悪いようには聞いていない。ただ純粋に私に会いに来ただけだと確信できた。「悪いね、いきなり来て。先生に無理言って病院の場所を教えてもらったんだよ。そろそろ君が私に会いたいなって考えてくる頃だと思って。ちなみに私も少し君と話したかったからね。」その言葉が、嬉しかった。わざわざ私のために時間を割いてきてくれるなんて。ちょっとだけ世間話もして、そらは勉強をしないといけないと言い帰っていった。じゃあ、さよなら、って。またねとは言ってくれなかった。初めて私がいらないと思った言葉を発して去ったそらに、私はまた会いたいけどね、と呟いた。もう来てくれることはないのかな。でも今日会えただけ良かった。来てくれなくとも、ずっと待ってるよ。

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