July 20 「relief」

 気が付くと辺りは暗く、真上にはキレイな満月が煌々と私のことを覗き見してる。


 子供のころ、段ボールにのぞき穴を開けて中に入り、母がキッチンで家事をしている後ろから、そおっと近づいて驚かせるみたいな遊びをしていた。すると弟が先に私のことを見つけて、のぞき穴から逆に中を見てきて私が驚いたという思い出がフラッシュバックした。


 そして焦って目が覚めたわ。勢いよく起き上がろうとしたけど全身が激痛で起き上がれなかった。左目が空かなくて真っ暗なのに気が付き、顔を触ると布地の感触がして脱臼した肩も火傷していた両手にも包帯が巻かれ、手当てされていた。


 左側には小さな川が流れていて、右側を向くと焚火で何が入っているかは分からない缶詰を手持ちの網で炙っているタケダが居た。どうやらこいつが顔も肩も手も腫れ上がっている私を川の水で冷やし手当してくれた様だった。


 オリバーのことを聞くと、車の中でまだ寝ているそうだ。私の話を聞いて、実際に目の当たりにしているので怖くて中には入れないらしい。とりあえず自分の目の前で気を失うほどの怪我と高熱で倒れている女性を放ってはいられなかったそうだ。


 とりあえず日本語で「ありがとう」と伝えて、私は去ろうとしたがまだダメだと止められた。オリバーをあのままにして置く訳にはいかないと伝え、私はなんとか立ち上がり車まで向かう。


 タケダはもう私を止めようとはしなかった。捕まえようとしたり、殺そうとしないだけでも本当にありがたい。私の熱弁が効いたのだろうか。逆に自分が所属している組織に嫌気が差したのだろうか。そのどちらかだったらいいんだけど・・・・・・


 最初、私の方が殺してでも抵抗して武器や無線機を奪おうとしてた。でも手当までしてくれたタケダの優しさや軍人なのに柔軟な思考に心底感謝した。まだそれでも私には奪い取ることは出来たが、タケダの立場が危なくなる。自分勝手なお返しのつもりとして、何もせずにこの時は私も去って行ったわ。



 車まで戻り、オリバーの確認をすると車内に居なかった。急いで周囲を見回すが、影すらも無かった。研究所側に見つかって連れて行かれたかもしれない。最悪の気分だったわ。フラフラになりながらもタケダの元へと走った。


《obj確保》


 そのような連絡が無線にて来るかもしれない。更にまた泣きそうになりながら私は走った。



 タケダが居た川沿いへ到着しそうになる直前に、悲鳴というか驚きと恐れが混じったような声が聞こえた。草木を掻き分け視界が広がると、そこには川の水をごくごくと音を立てて飲んでいるオリバーの姿と、少し離れた場所でタケダが慌てて銃を探している姿が目に入ってきた。


 私が彼らの元へ到着する前に、オリバーが水を飲み終えてタケダの方へと歩き出した。私は大声で

「NO!」「STOP!!」

 と両方へ向かって叫んだが、オリバーは犬やモグラのように地面の臭いを嗅ぎながらタケダの方へと向かう。

 途中、何度も石に躓き転倒しているオリバーは、視力が弱く殆ど見えていないらしい。嗅覚を頼りにずっと過ごしている。水の匂いとタケダの食事の匂いに釣られてここまできたのだろう。


 タケダは怯えながら何とか銃を手に取りオリバーに向けて銃を一発放ってしまった。

 私は愕然とし、その場で倒れこんだ。私と同じく倒れ込むオリバーを目前に、悲しみが押し寄せた。心の中で何度もなんどもトラビスへ謝罪の念を唱えた。



 タケダが私の元へやってきて手を貸してくる。しかし、なぜかこの時は立ち上がる気力も無くなっていた。絶望した表情で泣き崩れている私に向かってタケダは

「うったのは麻すい弾だ」

 と言った。刹那、私は瞬時に泣き止んだ。心底安堵して、少しの間その場で放心状態が数十秒続いた。感情と情報処理が追い付かなくなったんだと思う。

 タケダは笑顔でまた手を差し出してくれた・・・・・・



 この夜は一旦、日本人の男性であるタケダの世話になった。

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