July 17 「confinement」

 捕まった次の日。この時は絶望感でしか無かった。


 トラビスを殺してしまった事もショックだったが、結局、母に連絡も出来ずにこんな所で捕まってしまった事にも愕然としたわ。

 そんな事なら在日軍で不当な処罰でもなんでも、我慢して受けた方がマシだったって事になる。

 そう・・・私だけが処刑されるか、二百年や三百年という刑期に服した方がね。


 心配だった。

 家族に、国家反逆罪なり国際テロリスト等といった疑惑やレッテルが貼られる様なことになってしまうのではないかと・・・・・・


 そんな風に落ち込んでる内に、数人の男性がやってきて私をしに来た。



「なんてことをしてくれたんだ!」


「神ごろしが!!」



 多分、誰も使われていない汚い小屋で、後ろ手に木の柱に麻の縄で縛られた私を色々と罵声を浴びせながら殴る蹴るを繰り返してきた。



「神からの天罰がくだる」


「異たんの異きょうとが・・・・・・」



 私が少し分かる日本語『神』『天罰』という単語。この時点で、この村が何らかのカルト集団の集落だったってことが分かった。


 一時、この村人たちが思うがままの感情をぶつけられて間もなくして、この場所のリーダーっぽい人物がやってきて色々と話しかけてくる。殴る蹴るの頭への衝撃などもあり、こいつが早口だったのもありで殆ど何を言っているのかが分からなかったが、凡そは私は何者なのか、なぜ殺したのかといった内容だったと思う。


 多少の日本語も喋る事も出来たのだが、この日は会話をする気には一切ならなかった。自分への戒めや不甲斐無さ、悔しさ何かも自分にあった。暴行してきた奴らへの怒りもあるし、頭の整理が追い付か無かったのもある。


 この日は日本語が解らない外国人のふりをして、気分的になんとなく、そんな僅かな抵抗をしていたかったのだ。





【July 18】



 カルト教団の捕虜となって二日目。


 目が覚めると昨日のリーダー、村長とでも言うのだろうか。その男が私の前にかがみ込んで、じいっとこっちを見つめていた。気を失うように眠っていた私をずっと見ていたのだろうか・・・なんだかすごく気持ちが悪かった。


 私の足元にはお皿の上に二つの蒸したジャガイモとコップに入った牛乳が置いて有り、微かな甘い香りが既に空腹な私は少し気が緩んだ。その反応を感じ取られたのか、牛乳をそっと飲ませてくれた。昨日の暴行で口の中まで切れていて血の味が混ざった牛乳だが、正直、美味しかった。


 昨日とは違い、大分と生きる活力が出来た。牛乳の力だったかもしれない。男はイモを二つに割り、口の中に放り込んでくれて私はそれを頬張るように食べた。体力を付けないといけない。こんな所で死んでたまるか、という気持ちが湧き上がってきた。



 直ぐに完食すると、私は拙い日本語で話しかけた。とりあえず「ありがとう」とね。男は少し驚いた顔をしていたわ。直ぐにまた日本人特有のポーカーフェイスへと変わり、色々と質問してきた。何しに来たのか、一人なのか、仲間は居るのか、そしてお前は何者かと。


 一通り、真実を語った。下手なウソは尋問では返って不利になることも多いため、研究所や実験体のことは伏せて例の自殺体のこと、遺言書をポケットから出すようにと、元々のプラン通りに事を運んだ。



 遺書を読み終えると男は一時だけ席を外した。再度やってきた時はその事は無かったかの様に色々と質問された。とにかく何も知らないフリをし、急に襲われて咄嗟に銃を撃ってしまった。申し訳なかったと謝罪までした。それらもウソではないし本当の気持ちでもあることだし・・・・・・


 トラビスのことを考えながら、最初は演技のつもりだったが自然と語りながらも涙が零れた。男はそれからは黙ったまま私の話を、ずっと弁解を、懺悔室で後悔の念を聞いている神父のように聞いていた。


 この日はそれだけでその後は誰とも会話も、そして暴行も無かった。


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