CHIMERA~嵌合体~第二部/第二章『為』
Michelle Miller(ミシェル・ミラー) Diary(日記)②
【SUMMER July 21 「discovery」】
あれから五日も経ってしまった。色々と危なかったわ。
順番にとにかく記載していく。
最初は日本人なんて最悪だと思っていたわ。でも、最高の人とも出会った。アメリカでもどこでも、最低最悪な人も居るし、最高最善な人も居る。一部だけを見てそれを全体と思い込むことが如何に愚かな事かと痛感した。母は父を好きになった理由や、惹かれる理由もなんだか分かってきた気もする。そんな五日間だった。
【July 16 Night of the day】
謎の村への侵入前にこの日記やM4カービンといった大きな武器系はバラしたまま、元々持参してきたバックパックごと隠して置いて行った。
所持したのはSIG M17ハンドガンと軍用コンバットナイフ、拾ったノートPCが入ったPCリュックにスマホだけという、比較的に身軽な装備で向かい、目的は「充電」と「村の調査」だけに特化したの。
ノートPC持参の理由は、念の為ここがどこかの軍か研究所側の何らかの駐屯地といった場所だったらという期待と、この手に入れたスマホはアジアエリアで流通している一般的な物だから、ここの村人も持っているだろうと予測した。その充電器がUSBタイプのコードだけだと嫌だったからっていう理由もある。PCリュックの内ポケットにはノートPCのACアダプタは入っていたから、PC充電と同時にスマホも充電が可能な状態に出来るとも計算してね。
侵入時の時間は23時。外を出歩く人影も殆ど無くなった時間なので村への侵入は楽だった。この日は夕方前からこの時間まで観察していたが、皆がみんな、女性や子供まで全員が『白装束』を着ていた。父が持っていた写真や日本の話からも、そんな習慣は見たり聞いたことも無い。地域的なことなのか、何か『世界』が違うのか・・・・・・
見張っていた最中、ここの村人の二名が焼身自殺していた真っ黒に焦げつくした死体を担架で運び込んでいた。あの死体はここの村人だったのかもしれないが、ここ一体はやはり自殺者が多い地域であり、この周辺のそういった出来事の後片付けをこの村人が行っていたのだ。
日暮れからずっと、とっくに闇に眼を慣らせてきていた。闇に乗じての隠密は十分訓練されているので、追手から逃げるよりもストレスは無い。
洗濯物の有無や落ちているゴミの砂埃具合、新しい足跡の多さや履物、生活臭などから、人の気配が無い建物から順番に探っていった。理想は現在留守にしていて、電気が通っている家なのだが・・・なかなかそんな都合のいい場所は無かった。
ほとんど廃墟、全体的には廃村のような状態でインフラが整備されているような雰囲気では無い。微かに電気が点いている建物が在ったが、自家発電なのか、場所によっては車のバッテリーから電力を引いているような家もあった。その車内にシガレット充電があればベストだったわね。
流石に寝込みで侵入し充電などをする危険性を選べる勇気はない。忍者じゃ無いんだから。
最悪は、人が居ても一先ず充電だけさせてもらい、アカウント設定や母への連絡は後で村を出てからという選択肢だが、スマホの電波が入る場所まで探して行かなければならない。こんな廃村の奥地に、さっきもGPSが入らなかったように基地局があるとは思えない。理想はWiFiを通していればだったが・・・・・・
いくつか建物の内部を物色するが、食料も充電器も、これといったものは特に無かった。必要の無くなった何らかのコードぐらい有ってもいいものなのに。
この時点で、ダメだったらノートPCとACアダプタを分解して無理やりスマホ充電器を制作するしかないとも考えていた。当然そんなことはやったこと無いし、そこまで機械科の勉強なんてしたこと無いけど、車の配線とかとそんなに変わらないよね。失敗してもやるしかない状況なのよ。
なのでついでに工具セット、せめてドライバーでも見つけれればとも思い、色々と探していた。
すると、何のマークかも分からない『エンブレム』が壁や玄関に描かれた、外観はまるで教会のような雰囲気の建物に差し辺り、周囲と窓から中を探ってみた。一般的にはだけど、夜の教会なんて普通は誰も居ないはず。外から窓の中に何らかの照明器具も見えたので、電気が通っている可能性も高かった。
あまりウロウロとし過ぎても、バッタリとこの怪しい村人に出くわすなんてことも、例えこんな夜の時間でも無い訳でもないし、出来れば人が寝ている家に侵入なんてのも避けたかった。村の中心部、主要っぽいエリアに何らかの重要施設が在りそうな事も無かった。大体が普通の民家だったからここが軍や研究所などの駐屯地や野営地として管理されてことも無さそうである。
外観的にそんな分かり易い映画の様にテントを張ってたり、重々しい施設にしていたりなんてことはリアルでは無い。使えるものは何でも使う。それがこんな廃墟のような建物でもね。
それでも概ね家や小屋に重要施設ならば、警備員の一人や二人は居るはずだけどそれらも全く無かった。
普通の一般人の村だ。
そう判断し、ノートPC等を分解してみる方向で考えることにした。この教会の内部なら一晩ぐらい滞在していても問題は無さそうだし、少しだけ警戒を解いて安心して休憩も出来そう。ゆっくりと安息しながら分解し配線と基板を使い、無理やり繋げてみようと思った。
後、凄く怪しい村の人達だけど、案外話せば分かってくれるんじゃないかしらとも、この時ふと楽観的な期待もしていた。勿論、見つかることは避けたかったけど家族の安全が第一だしね。例の遺書と首吊り自殺男性の件で軍人として話に来た。そのプランを、こんな怪しい所で使うなんて不安しかないけど・・・これもまた仕方が無い。これで私の”足”がついてしまうならそれもそれまで。最後に、出来ればドムの顔を見て抱き締めたかった・・・そんな事を考えながらその教会へと窓から侵入した。
大体、二階の窓は閉められていないか、そもそも鍵なんて無いことも多い。こんな田舎では一階ですら鍵が掛かっていないなんて事も”ざら”にある。特にこのような何らかの宗教施設はそのような罰当たりな人も居なければ、中に貴重品なんてそもそも無いことも大半が分かっている為・・・てか、現にどこからでも入ることが出来た。
恐らく大聖堂の様な広間だろう部屋から入っていった。そこの方がとりあえず誰も居ない可能性が高いから。すぐ目の前に二階へ上がる階段があったので先に上がり、人が居ないか確認した。勿論ついでに何か物資が無いかも見ながらね。誰も居ないし何も無かったけど。
一階の広間に戻った。そこは日本のTATAMI(畳)が敷き詰められていた。この畳というイ草の匂いがまたなんだか懐かしい気がした。小さいころにもしかして私はこの日本に来たことがあるのかしら・・・この時、そんな気がしていた。
その広間の奥に別の部屋への扉があった。私たちの教会で言う所の神父や牧師が待機する用のような部屋の位置だ。ゆっくりと木造の引き戸を開けようとした。けども開かなかった。誰かが居る。そう思い、私は早速プランを切り替えた。
knock・・・knock・・・knock・・・・・・
何を信じているのかは分からないが、神を信じるような崇高な人であれば、誰でも死者を敬うだろうと思って正面から三回knockをした。日本では確かノックは三回だったよね。
しかし、誰も出ずに返事もなかった。もう一度ノックを繰り返すが、無反応だった。
この部屋が内側からの鍵ではないとしたら、倉庫的な使い方をしているかもしれない。ドライバーなどの工具か何かぐらいは有るかもと思って”いつものように”ヘアピンを使って鍵を開けることにした。
このような木造建築の鍵はフック式のシンプルなやつってのが相場が決まっている。ヘアピンの先端をL字に曲げて、何度か長さを調整しながら鍵本体のフックが重いので、ピンの根本にナイフの先を差し込み回し込む。
コトン・・・・・・
鍵が外れる音がした。
慎重にライトとハンドガンを構えながら、内部を見ると予想外なことになった。
私の目に映ったのは例の白装束だった。なので一瞬、人かと思ったわ。でも違ったの。頭髪は赤毛で、体格は人よりすこし小さめ。手足の体毛まで赤毛で着物からはみ出す程に長い。
・・・そう、実験体obj『トラビス』がそこに居た。
なぜそこに居たのかは順に後で記載する。
とにかくその時、いきなりトラビスに襲われたの。部屋がそんなに広く無かったので、所謂、動物の縄張りテリトリーってやつに入ってしまったのね。私は手に持っていた銃を反射的に発砲してしまった・・・三発も・・・・・・
トラビスだと気が付いたのはその後よ。ごめんね・・・トラビス・・・・・・
びっくりしたわ。直ぐにトラビスだと分かって更に驚いた。横たわり大量に出血をしてる”人獣”の先に、二回りも小さな人獣がいた。
トラビスの子供だ。
綺麗な金髪色で両目が隠れるほど頭髪も全身の体毛も長く、日本人の黒髪のように艶やかな光沢をしたストレートヘア。
研究所に居た頃はボサボサのままでずっとトラビスが離さなかったらしく、任務開始時に見た資料の写真と今の風貌とは少し違ったけど、テナガザルのように長い腕と、犬やキツネのように少し長い鼻と顎が他の実験体と違いがあり、凄く印象的で覚えていたの。この村で清潔にされたのだろう。月光に照らされるそれはなんだか美しく見えた。
すぐにトラビスの止血をしようとしたけど、ダメだった。私が迷彩の戦闘服を着ていたのと母親の、防衛本能が先に動いてしまったのね・・・・・・
私の脳裏には脅えて子を抱きしめながら震えているトラビスの姿が
気が付くと私は泣いていた。
必死に、全身トラビスの血だらけになりながら、泣きながら止血していたが、血は止まらなかった・・・・・・
そうこうしている内に、銃声を聞きつけた村人が数人やって来て、私は捕まりそのままその村に幽閉されてしまったの・・・・・・
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